行政書士試験は、行政書士として業務を行うために必要な知識や能力を判定する試験です。
行政書士試験は、法律系資格の登竜門として位置づけられており、合格後は国家資格の肩書きが付くため就職活動のアドバンテージにもなります。合格率は10%前後と難関と呼ばれる試験のひとつですが、しっかりと計画を立てて勉強することで十分に合格できます。
まずは、試験の概要を確認していきましょう。
・行政書士試験を受ける方
・行政書士試験に興味がある方
・行政書士試験の内容について知りたい方
受験資格
年齢や国籍、学歴などに関係なく誰でも受験できます。
試験日・時間
毎年1回、11月の第2日曜日に実施されています。
試験時間は午後1時から午後4時までの3時間です。
受験申込期間は、例年7月下旬~8月下旬までです。
合格発表は1月下旬で、合格率は10%前後です。
試験科目
※令和6年度の試験から変更あり!
法令科目と基礎知識科目に分かれています。
法令科目(出題数46問)
憲法、行政法(行政法の一般的な法理論、行政手続法、行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法及び地方自治法)、民法、商法、基礎法学の法律の知識が問われます。
一般知識科目(出題数14問)
一般知識、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令※1、情報通信・個人情報保護や文章理解などの知識が問われます。
※1:行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令とは、行政書士法、戸籍法、住民基本台帳法などのことです。
出題形式及び配点(目安)
出題形式(配点) | 科目 | 問題数 | 配点 | 合計 | 基準点 | |
法令科目 | 5肢択一式 (1問4点) |
基礎法学 | 2問 | 8点 | 244点 | 122点 |
憲法 | 5問 | 20点 | ||||
行政法 | 19問 | 76点 | ||||
民法 | 9問 | 36点 | ||||
商法・会社法 | 5問 | 20点 | ||||
多肢選択式 (1問8点) |
憲法 | 1問 | 8点 | |||
行政法 | 2問 | 16点 | ||||
記述式 (1問20点) |
行政法 | 1問 | 20点 | |||
民法 | 2問 | 40点 | ||||
基礎知識 |
5肢択一式 (1問4点) |
一般知識 | 14問 |
56点 |
24点 |
|
行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令 | ||||||
情報通信・個人情報保護 | ||||||
文章理解 | ||||||
60問 | 300点 | 180点 |
行政書士試験は、300満点中180点以上で合格できます。しかし、法令科目、基礎知識それぞれに基準点が設定されており、合格するためには両方の基準点をクリアする必要があります。なお、令和6年度から試験科目が変更となったため、基礎知識については科目ごとの出題数が現時点では不明です。
試験内容
筆記試験(マークシート方式、記述あり)
次に、効果的な勉強法と対策についてご紹介します。
行政書士試験は難易度が高く、しっかりとした計画と努力が必要ですが、焦らず着実に進めることで合格への道が開けます。
科目別対策(法令科目)
法令科目は以下の5つです:
- 民法
- 行政法
- 憲法
- 基礎法学
- 商法・会社法
これらは行政書士の業務に深く関わる法律に絞られており、特に民法、行政法、会社法は実務で重要です。試験内容が「実務に関係ない」と言われることもありますが、民法は私法の一般法であり、行政法は行政書士の実務で使う法律の大枠を学びます。会社法の「設立」分野も行政書士業務と関連があります。将来的に司法試験や司法書士試験を目指す場合にも重要な科目です。以下に、科目ごとの試験内容と対策のポイントを勉強順に紹介します。
民法
民法は行政書士試験で300点中76点の配点があり、全体の25%を占める重要科目です。近年、法令科目が難化しており、特に民法はその傾向が強いため、効率的な学習と正しい対策が合格の鍵となります。民法は私法の一般法であり、その考え方は行政法や商法を学ぶ上でも有用です。
出題形式 | 出題数 | 配点 |
5肢択一式 | 9問 | 36点 |
記述式 | 2問 | 40点 |
合計 | 11問 | 76点 |
民法を攻略するためには、AやB、Cといった人物が登場する事例問題を解けるようになることが必須です。しかし、事例問題は単に条文や判例を丸暗記しただけでは解けません。条文や判例を正しく理解し、ケースごとにどの条文や判例が該当するかを考えながら正解を導き出す必要があります。
さらに、5肢択一式の勉強をする際には、常に記述式を意識することが重要です。「5肢択一式で問われた知識が記述式でも問われたらどう書くか」を考えたり、基本的な用語や制度について簡潔に書けるようにトレーニングしたりするなど、日頃から意識して学習しましょう。もったいないミスを防ぐために、漢字を正確に書けるようにすることも大切です。
行政法
行政法の配点は300点満点中112点で、全体の37%を占めています。これは全科目の中でもっとも大きなウェイトです。行政法の出題数や配点は以下のとおりです。
出題形式 | 出題数 | 配点 |
5肢択一式 | 19問 | 76点 |
多肢選択式 | 2問 | 16点 |
記述式 | 1問 | 20点 |
合計 | 22問 | 112点 |
行政法は憲法や民法に比べて馴染みが薄いため、取っ付きにくいと感じるかもしれません。しかし、条文の知識をそのまま問われる問題が多く、過去問での学習が有効なため、学習しやすく力を伸ばしやすい科目です。
学習のコツは、できるだけ具体的なイメージを持つことです。例えば、建築基準法に基づいて建物の建設許可を得る過程を考えてみましょう。建設許可は行政処分であり、不当だと思う場合には行政不服審査法に基づいて不服申し立てが可能です。審理の結果、処分が妥当だと判断されれば不服申し立ては棄却されます。このような具体的な事例を想像することで、条文の適用場面を理解しやすくなります。
また、地方自治法では、皆さんが住んでいる地方公共団体(例:東京都、福岡市)の運営に関する話題が含まれます。地方自治体の首長や議会の役割など、身近な事例を思い浮かべることで理解が深まるでしょう。
条文を学習する際も、条文が適用される場面やその結果を具体的にイメージしながら学習することで、理解が深まり記憶に残りやすくなります。
憲法
憲法は人権と統治の2つの分野から出題されます。「300点満点中28点」と聞くと、それほど重要ではないように感じるかもしれません。しかし、実際には「あと1問取れていたら合格できたのに」という状況も多々あります。合格を確実にするためには、憲法の問題でもしっかり得点することが求められます。出題数や配点は以下のとおりです。
出題形式 | 出題数 | 配点 |
5肢択一式 | 5問 | 20点 |
記述式 | 1問 | 8点 |
合計 | 6問 | 28点 |
人権分野では、主に判例の知識が問われます。試験に出題される判決文の箇所はある程度決まっているため、過去問を活用して出題傾向を把握することが効果的です。ただし、判決文を丸暗記するだけでは不十分です。判決文の要約を並べ替える問題が出題されたこともあるため、判決に至るまでの流れ(判断枠組み)も理解しておく必要があります。
統治分野では、条文の知識がそのまま問われることが多いため、条文をしっかりと覚え、過去問を繰り返し解くことが有効です。「司法権」の分野では、判例の学習も重要です。
憲法の出題数は少ないものの、その成績が試験全体に大きな影響を与えることもあります。安定して高得点を取るために、しっかりと対策を立てておくことが大切です。
基礎法学
基礎法学では、5肢択一式の問題が2問出題されます。行政法や民法に比べて重要度は低いかもしれませんが、試験においては1点の差が合否を分けることも少なくありません。そのため、捨て科目にするのは非常にもったいないと言えるでしょう。しっかりと対策を講じて、確実に得点を確保することが重要です。
出題形式 | 出題数 | 配点 |
5肢択一式 | 2問 | 8点 |
基礎法学は法学全般の知識が問われるため、範囲が広く、2問のうち1問は特に難易度が高い傾向があります。長文の問題に苦戦することもありますが、冷静に対処し、残りの問題で確実に得点を狙いましょう。
対策には、広範な範囲を効率的に学ぶために過去問を徹底的に解くことが有効です。法令科目をすべて学んだ後に基礎法学を復習として取り組む方法もおすすめですが、あまり多くの時間をかけすぎないようにしましょう。
商法・会社法
商法・会社法では、5肢択一式の問題が合計で5問出題されます。正式には「商法」と呼ばれていますが、実際の試験では「商法」から1問、「会社法」から4問が出題されます。
出題範囲が広大であるにも関わらず、問題数が比較的少ないため、後回しにしがちですが、無視するにはもったいない科目です。特に実務では会社法の知識が非常に重要になるため、しっかりと勉強しておくことが推奨されます。ただし、範囲を広げすぎると逆効果になることもあるので、重要な部分に絞って集中して学習することが効果的です。
出題形式 | 出題数 | 配点 |
5肢択一式 (商法) |
1問 | 4点 |
5肢択一式 (会社法) |
4問 | 16点 |
合計 | 5問 | 20点 |
商法については、基本的な知識をしっかり押さえておくことが重要です。具体的には、テキストや過去問、模試を活用して基礎を固めましょう。
会社法は、「株式会社の設立」や「機関」などの分野が比較的理解しやすく、よく出題されるテーマです。この分野から2問は確実に得点できるように学習を進めると良いでしょう。もし時間が限られている場合は、「株式会社の設立」のみでも重点的に勉強するのが賢明です。
また、会社法の知識は、将来的に会社設立手続きやコンサルティング業務に役立つため、合格後の業務をイメージしながら学習を進めると、モチベーションの維持にもつながります。
科目別対策(基礎知識)
基礎知識は、以前「一般知識等」と呼ばれていた分野で、令和6年度の試験から「基礎知識」へと名称が変更されます。内容についても以下のように見直されます。
- 新たに「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が追加されます。
- 「政治・経済・社会」の科目が「一般知識」へと名称変更されます。
令和6年度以降の基礎知識科目は以下のとおりです:
- 一般知識
- 行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令
- 情報通信・個人情報保護
- 文章理解
一部変更があるものの、情報通信・個人情報保護や文章理解は従来通りの内容で試験に含まれます。
一般知識の科目は、旧「政治・経済・社会」と同様の内容が問われると考えられます。また、基準点を突破し、文章理解を得点源にするなどの戦略も従来通り重要です。
基礎知識科目では、高得点を狙うよりも足切りにあわないことが重要です。まんべんなく学ぶよりも、得点できる部分で確実に点を取る意識が大切です。
ここでは、基礎知識科目ごとの試験内容と対策のポイントをご紹介します。
一般知識
これまで「政治・経済・社会」からは例年7〜8問の5肢択一式問題が出題されていましたが、令和6年度からは「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が新たな科目として追加されるため、出題数が不明です。
ただし、「情報通信・個人情報保護」からは引き続き3〜4問、「文章理解」からも3問が出題されると予想されます。一方で、「政治・経済・社会」からは数問が新しい科目に振り分けられる可能性があり、結果として出題数が減少する見込みです。
これにより、旧「政治・経済・社会」は範囲が広く、足切りの原因になることが多かったですが、出題数が減ることで対策がしやすくなるでしょう。
一般知識の対策には、旧「政治・経済・社会」と同様の方法が適しています。以下の分野が頻出です:
- 各国の政治制度
- 日本の選挙制度
- 国際問題
- 金融政策
- 財政問題
- 環境問題
- 社会保障制度
- 労働問題
まずはテキストと過去問をしっかり学習し、新聞やニュースに目を通す習慣をつけると良いでしょう。気になるニュースはネットで調べて理解を深めることも効果的です。私は、ニュース検定のテキストを隙間時間に読んだりしていました。
ただし、時間をかけすぎるのは避けるべきです。出題数が減ることで予測が難しくなり、過度な学習が必ずしも成果に結びつくわけではありません。
全問正解を目指すのではなく、例えば3〜4問出題される場合は2問獲得を目標に設定し、「頑張りすぎない」ことが重要です。一般知識で2問、行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令で2問、情報通信・個人情報保護で2問、文章理解で3問正解できれば、合計9問(36点)で合格基準点を十分にクリアできます。
行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令
これまでは情報通信・個人情報保護から5肢択一式の問題が3〜4問出題されていました。今回の改正による影響は不明ですが、情報通信・個人情報保護は基本的な知識を問われる問題が多いため、得点源として活用しやすい科目です。出題数が変動する可能性があっても、全問正解を目指してしっかり取り組むことが大切です。
情報通信・個人情報保護の対策ポイント
- 情報通信: この分野では、情報や通信技術に関する基本的な用語が頻繁に出題されます。難易度は比較的低く、用語の意味を理解しているだけで正解できる問題も多いため、用語とその意味を確実に覚えておくことが重要です。
- 個人情報保護: この分野では、以下の法律に関する条文知識が問われることが多いです:
- 個人情報保護法
- 行政機関個人情報保護法
- 情報公開法
- 公文書管理法
テキストや条文を活用しての学習が有効です。さらに、過去問を繰り返し解くことで出題傾向を把握しやすくなります。この分野を得意にすることで、基礎知識の攻略が一段と楽になるでしょう。
文章理解
これまで、文章理解の問題は5肢択一式で決まって3問出題されていました。令和6年度の試験でも同様に3問出題されると予想されますが、確定ではありません。しかし、情報通信・個人情報保護と同じく、文章理解も得点源として有効な科目です。全問正解を目指し、できるだけ多くの問題に取り組むことが重要です。
文章理解の対策ポイント
- 出題形式の変化: 以前は並べ替えや空欄補充、文章要旨把握などの問題が幅広く出題されていましたが、最近では空欄補充型の問題が主流です。空欄補充問題はテクニックを駆使しやすく、国語力だけでなく、解答のコツをつかむことが求められます。
- 対策方法: 苦手意識がある場合は、できるだけ早く取り組み、問題を解く練習を重ねることが有効です。近年の文章理解は比較的難易度が低めで、得点しやすいのが特徴です。全問正解を目指して、確実に得点を重ねましょう。
- 得点目標: 文章理解で安定して3問正解できれば、残りの科目で3問取るだけで24点を突破でき、足切りのリスクを大幅に減らすことができます。基礎知識の得点源として位置づけ、安定した得点を確保しましょう。
私は、文章理解の対策として、公務員試験用の過去問題集を使っていました。1度解くだけでなく、3~4周ほどしました。
公務員試験 新スーパー過去問ゼミ7 文章理解・資料解釈 (新スーパー過去問ゼミ7 教養試験対策)
スケジュールの立て方
行政書士試験の勉強は長期戦です。試験日までに800時間以上(1年間で)必要とも言われています。まずは試験日までの期間を確認し、自分のスケジュールを立てましょう。日々の仕事や学業との両立を考え、適切なペースで進めることが大切です。私の場合は、1か月の大まかなスケジュールを立て、さらに1週間ごとに具体的なスケジュールを立てました。
基礎知識を固める
試験は法令や制度などの基礎知識が問われます。まずは法律の基本的な概念や行政手続きに関する基礎知識をしっかりと身につけましょう。専門書や法令集を利用して、基礎をしっかりと固めていきましょう。試験範囲はとても広いですが、大切なのは基礎知識です。
過去問を解く
過去問は合格への近道です。過去の試験問題を解いて、出題傾向や問題の難易度を把握しましょう。正答だけでなく、誤答した場合はなぜ誤ったのかを理解し、不足している知識を補完しましょう。
体調管理とリラックス
勉強に集中するためには、十分な睡眠と適度な運動が必要です。体調管理を怠らず、ストレスがたまりすぎないように心がけましょう。例えば、毎日のストレッチや深呼吸の習慣化などがおすすめです。また、合格をイメージしてリラックスすることも重要です。
行政書士試験の合格基準
行政書士試験の特徴は、明確な合格基準が設定されており、指定された基準点以上の得点が必要です。合格基準は以下のようになっています。
- 法令科目で122点以上
- 一般知識で24点以上
- 総合得点で180点(全体の60%)以上
これらの3つの条件をすべて満たす必要があります。
合格に向けての注意点
- 足切りの存在 足切りがあるため、たとえ法令科目で満点を取っても、基礎知識で24点に満たない場合は不合格となります。つまり、単に総得点が180点以上であればよいというわけではなく、法令科目と基礎知識の両方で十分な得点を確保する必要があります。詳しくは「行政書士試験における足切り(基準点)とは?概要と足切り点を解説」をご覧ください。
- 180点到達の必要性 合格基準の①と②を満たしても、180点に達しない場合があります。例えば、法令科目で122点、一般知識で24点取った場合、合計146点となり、180点には34点足りません。このため、34点をどこで確保するかが重要です。苦手分野を減らし、得意分野を伸ばすなどの戦略が求められます。
- 法令科目の重要性 基礎知識で満点を取った場合でも、合格には法令科目で124点以上取らなければなりません。つまり、合否を左右するのは法令科目の得点です。基礎知識にも注意を払いながら、法令科目に重点を置いた学習計画を立てることが重要です。
さいごに
行政書士試験の内容、試験科目、配点、及び科目別の対策方法について詳しく解説しました。
行政書士試験は合格率が10%前後と非常に難易度が高く、合格できるか不安になるかもしれません。しかし、その厳しさゆえに、合格した際の達成感は格別であり、試験を通じて得られる知識や経験も貴重です。
これから行政書士試験に挑戦しようと考えている方や、かつて諦めたものの再挑戦を決意した方、または何度も受験しているがなかなか合格できない方には、資格スクールの通信講座を活用するのが非常に効果的です。通信講座を利用することで、効率的に学習を進めることができ、合格への道が開かれるでしょう。
焦らず着実に学習を進めることが合格への鍵です。自分の進捗を確認しながら、計画的に勉強を続けることで、最終的な目標である合格に向けて確実に一歩一歩近づいていきましょう。