行政書士法:行政書士の誕生と制度の沿革、第1条

令和6年から行政書士試験が大きく変わります。たとえば、「一般知識等」が「基礎知識」に変更され、試験科目として「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が追加されます。
「行政書士法」は、行政書士の制度が定められた法律です。目的、業務、資格、懲戒などが規定されています。行政書士として業務を行うならば、必ず知っておかなくてはならない法律です。私も令和5年行政書士試験合格後から、書籍を購入して行政書士法について勉強してきました。そして理解をさらに深めるために記事にまとめていくことにしました。
今回は、「行政書士の誕生の歴史や制度の沿革、第1条の目的」についてまとめます。

行政書士とは

多数の業務分野があり、一般法律専門職的な行政書士は、一般の方々からみると、非常にわかりにくい士業だと思われます。中には、行政書士のことを「代書人」だという認識の方もいるでしょうが、今や行政書士は「法的書類・データづくりの専門資格者」であり、日常の法規相談や法的代理といった法律の事務を行う「まちの法律家」だと言えるでしょう。

行政書士の誕生・制度の沿革

いわゆる「代書人」の歴史は、江戸時代にさかのぼります。江戸時代末期に、代言業を行う公事師などが存在していました。公事師とは、江戸時代に民事訴訟の代理を業としたものことで、今の弁護士にあたる職業です。
1872年、司法職務定制で、「証書人、代書人、代言人」の3種類が制定されました。それぞれ、証書人が今の公証人のこと、代書人が今の行政書士や司法書士のこと、代言人が今の弁護士のことです。
1893年、弁護士法により、代言人が「弁護士」となりました。
1903年、大阪で「代書人取締規則」が、1904年、警視庁令で「代書業者取締規則」が定められましたが、全国的な法整備はありませんでした。
1919年、司法代書人法が、1920年、内務省令による「代書人規則」が定められ、司法代書人と(行政)代書人が分かれました。その後、1935年、司法書士法が制定され、司法書士の法整備が行われました。しかし、行政書士についてはまだ全国的な法整備はありませんでした。
1938年、東京代書人会などが「行政書士法」制定の請願を行いましたが、衆議院で廃案となり、制定されませんでした。
1948年、東京都行政書士条例が公布・施行されました。その当時、法務省にて行政書士法案が提起されていましたが、”日本は文化国家だから行政書士は必要ではない”という意見があり、制定されませんでした。その後、議員立法による制定の動きがあり、ようやく行政書士法が誕生したのです。
1951年2月22日、行政書士法が制定(公布)されました。そして、1951年3月1日から施行されました。

行政書士法の主な改正

以下に、主な改正点をまとめました。

1960年 日本行政書士会連合会と都道府県行政書士会への強制介入制
(入会した者だけが行政書士業ができる)
1980年 官公署「書類提出手続の代行」と書類作成「相談」の非独占業務を法定
社会保険労務士との業務分離
☆行政書士法1条の2新設
1983年 国家試験による全国通用資格化
行政書士会への登録即入会制(名簿への登録を受けた者は当然に会員となる)
1997年 「目的」既定の創設
1999年 受験資格要件の廃止(だれでも受けられるようになる)
「指定試験機関」制の法定
行政書士試験事務が、機関委任事務から都道府県の自治事務となる
2001年 目的規定の一部改正
非独占業務として、官公署「書類提出手続の代理」・「契約」書類を「代理人として作成」が明記される
2002年 電磁的記録作成業務の法定
2003年 行政書士法人制度の創設
使用人行政書士の法定
2008年 聴聞または弁明の機会の付与等に係る行為の代理について法定
2014年 行政不服申立て代理を法定業務に追加
☆特定行政書士のみが行う
2019年 目的規定の改正
行政書士1人の法人を許容
行政書士会による会員への注意勧告の新規定

行政書士法 第1条

(目的)
第一条 この法律は、行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資することを目的とする。

第1条では、目的規定が定められています。1997年の改正で新設され、その後2回の改正を経て現在の条文となりました。条文を目的と手段で分けると、以下のようになります。

目的:行政に関する手続の円滑な実施に寄与するとともに国民の利便に資し、もつて国民の権利利益の実現に資すること

手段:行政書士の制度を定め、その業務の適正を図ること

行政書士の「制度」とは?

「制度」とは、組織法的しくみを意味しています(狭義)。たとえば、行政書士の資格、試験、登録、法人、監督などの定めのことです。
一方で、作法的しくみの意味もあります(広義)。たとえば、行政書士の法定業務や義務、事務所設営、違反罰則などの定めのことです。

行政に関する手続とは?

行政に関する手続は、計画策定やパブリックコメント手続など非常に広い範囲が含まれますが、行政書士の業務にかかわるのは、主に行政処分および行政指導の透明・公正手続のことだと言えます。

国民の権利利益の実現に資するとは?

行政書士業務が多様化し、国民の公法上及び司法上の権利利益にかかわることから、より実態に即したものとするため、このような規定が明記されました。この”実現”には、公法上及び私法上の意味も含まれており、「保護」や「救済」も含まれているとされています。

さいごに

行政書士法は、1951年の制定以来、社会の変化に応じて何度も改正されてきました。行政書士は、一般市民や企業が法律や行政手続きをスムーズに行えるよう支援する重要な役割を担っています。第1条では、行政書士の目的が定められており、行政書士としての役割や意義が明確にされています。


参考文献
・第13版 行政書士法 コンメンタール:兼子 仁 著(北樹出版)
・伊藤塾 行政書士実務講座 入門マスター 行政書士法等 テキスト