令和6年から行政書士試験が大きく変わります。たとえば、「一般知識等」が「基礎知識」に変更され、試験科目として「行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令」が追加されます。
「行政書士法」は、行政書士の制度が定められた法律です。目的、業務、資格、懲戒などが規定されています。行政書士として業務を行うならば、必ず知っておかなくてはならない法律です。私も令和5年行政書士試験合格後から、書籍を購入して行政書士法について勉強してきました。そして理解をさらに深めるために記事にまとめていくことにしました。
今回は、「第1条の2 行政書士の業務」についてまとめます。
第1条の2
(業務)
第一条の二 行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
第1条の2では、行政書士が行うことのできる(できない)業務について書かれています。
第1条の2第1項のポイント
行政書士の業務は、下記の独占業務とされる書類作成であり、これを他人の依頼によって、報酬をもらって行うことです。
- 官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録を作成する場合における当該電磁的記録を含む)
例)会社設立、許認可申請など - 権利義務に関する書類
例)契約書、遺産分割協議書など - 事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む)
例)内容証明郵便など
上記の業務は、行政書士の独占業務とされています。そのため、行政書士ではない者が他人の依頼を受けて、報酬を得て、業として行うことはできません。もし、これを行った者は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。行政書士法では、以下のように明記されています。
第十九条 行政書士又は行政書士法人でない者は、業として第一条の二に規定する業務を行うことができない。ただし、他の法律に別段の定めがある場合及び定型的かつ容易に行えるものとして総務省令で定める手続について、当該手続に関し相当の経験又は能力を有する者として総務省令で定める者が電磁的記録を作成する場合は、この限りでない。
第二十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 行政書士となる資格を有しない者で、日本行政書士会連合会に対し、その資格につき虚偽の申請をして行政書士名簿に登録させたもの
二 第十九条第一項の規定に違反した者
それでは、具体的にどんな書類が作成できるのか、確認していきましょう。
行政書士が作成できる書類
・官公署に提出する書類
「官公署」とは、国または地方公共団体の諸機関のことで、公団・公社や行政執行法人は含まれません。たとえば、以下の機関は、「官公署」に含まれません。
日本政策金融公庫、商工会議所、外国人技能実習機構など
なお、裁判所、検察庁、法務局宛の書類作成は、司法書士の独占業務となっているため、「官公署」には含まないものとされています。
主な書類
官公署に提出する書類であれば、権利義務または事実証明に関する文書であるかないかに関わらず、作成ができます。たとえば、以下のような書類です。
・「届出書」、「報告書」、「同意書」
・「事業計画書」、「図面」、「財務経理書類」など
・警察機関あて「告訴・告発状」、「請願書」、「陳情書」など
電磁的記録とは?
電磁的記録:電子的、磁気的方式その他人の知覚によって認識することができない方式で作られる記録のことで、パソコン等によって作られたデータ等のこと。
高度情報化社会の進展にともない、電子政府の構築が推進され、電子申請オンラインシステムの整備が急速に進んでいます。2002年には、行政手続オンライン化法およびその関係法律整備法が制定されました。その際に行政書士法も改正され、第1条の2第1項に電磁的記録に関する定めが明記されました。
・権利義務に関する書類
権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類のことです。たとえば、以下のような書類です。
・賃貸借契約書
・示談書
・遺産分割協議書 など
・事実証明に関する書類
実社会生活において、事実を証明するために使われる文書のことです。たとえば、以下のような書類です。
・証明書(交通事故調査報告書、自動車登録事項証明書など)
・経営会計書類(財務諸表、営業報告書など)
・各種図面類(見取図、平面図など)
・一定の税務書類
基本的に税務書類の作成は税理士の業務です。しかし、以下の税については、税理士法で行政書士がその作成業務を行うことが認められています。
税理士法 (行政書士等が行う税務書類の作成)
第五十一条の二 行政書士又は行政書士法人は、それぞれ行政書士又は行政書士法人の名称を用いて、他人の求めに応じ、ゴルフ場利用税、自動車税、軽自動車税、事業所税その他政令で定める租税に関し税務書類の作成を業として行うことができる。
他士業との共同法定業務
以下の業務は、行政書士にとって他士業との共同法定業務と解されているものです。
書類 | 他士業 |
非紛争的な契約書・協議書類 | 弁護士 |
著作権ライセンス契約書 | 弁理士 |
行政書士が作成できる税務書類、税務に付随する財務諸表など | 税理士 |
1ヘクタール未満の開発行為の設計図書を含む開発許可申請書 | 建築士 |
法務大臣宛の帰化許可申請書、検察審査会提出書類、警察機関宛ての告訴・告発状 | 司法書士 |
登記に関係しない土地・家屋の調査と測量図 | 土地家屋調査士 |
行政書士が作成できない書類とは?
他の法律で、その業務を行うことが制限されているものがあります。以下のように、他の資格者の独占業務に属する書類作成業務は、行政書士が行うことはできません。
他資格の独占業務 | 他資格 |
訴訟事件・非訟事件に関する書類等 | 弁護士 |
特許出願書、実用新案登録出願書、意匠登録出願書、商標登録出願書 | 弁理士 |
財務書類(の調整等) | 公認会計士 |
不動産の鑑定評価に関する書類 | 不動産鑑定士 |
所得税、法人税、住民税等の申告書等 | 税理士 |
不動産登記申請書、会社設立登記申請書、供託書等 | 司法書士 |
土地表示登記申請書、建物表示登記申請書等 | 土地家屋調査士 |
労働及び社会保険に関する法令に基づいて行政機関等に提出する書類 | 社会保険労務士 |
公正証書、定款の認証等 | 公証人 |
さいごに
第1条の2は、行政書士の業務の範囲とその制限について書かれています。行政書士は、他人の依頼を受けて官公署に提出する書類や権利義務に関する書類、事実証明に関する書類を作成することが主な業務です。これらの業務は、行政書士の専門性と信頼性を担保するために、他の職業資格者には認められない独占業務とされています。
しかし、これらの業務には制約も存在します。他の法律で制限されている業務については、行政書士であっても行うことができません。また、業務を行う上での倫理的な責任も重要です。第19条と第21条では、無資格者が行政書士の業務を行った場合の罰則が明記されており、行政書士の業務の厳格さと重要性が強調されています。
このように、第1条の2は、行政書士の業務範囲とその制限を明確にし、行政書士としての役割を果たす上での基本的な指針を提供しています。行政書士としての業務を理解し、適切に遂行するためには、この条文を深く理解することが不可欠です。
参考文献
・第13版 行政書士法 コンメンタール:兼子 仁 著(北樹出版)
・伊藤塾 行政書士実務講座 入門マスター 行政書士法等 テキスト