マクリーン事件とは?~マクリーン判決が現在に与える影響~

マクリーン事件

「マクリーン判決」は、1978年に日本の最高裁判所が下した判決であり、日本における外国人の在留資格に関する重要な法的基準を設けました。この判決は、外国人の権利に対する理解を大きく変えるものであり、現在においてもその影響を色濃く残しています。この記事では、マクリーン事件の背景、判決の内容、その後の影響について詳しく解説します。

うつのみや
この記事は、こんな方におすすめ!
・マクリーン事件について知りたい方
・行政書士試験を受ける方
・日本における外国人の権利について知りたい方

マクリーン事件の背景

事件の概要

マクリーン事件は、アメリカ国籍のマクリーン氏が日本に滞在している間に起きた事件です。

マクリーン氏は1959年にハワイ大学を卒業後、ハワイ州立学校の教師として勤務していました。その後、1966年にアメリカ平和奉仕団の一員として大韓民国に渡り、英語教育に携わりました。

1969年、マクリーン氏は在大韓民国日本国大使館で、出入国管理令(現在の出入国管理及び難民認定法)に基づき1年間の上陸許可を得て、日本に入国しました。日本では英語教師として働きながら、日本の文化に触れる生活を送っていました。

また、大学で日本美術や中国絵画を専攻していたことから、日本の古典音楽にも深い興味を持ち、琵琶や琴を習得しようと専門家に師事し、研究を進めていました。

しかし、1970年に在留資格の更新を申請した際、入国管理局(現在の出入国在留管理庁)は「出国準備期間として120日間の在留期間の更新を許可する」との処分を下しました。マクリーン氏はその後、1年間の在留期間再更新を申請しましたが、更新は拒否され、帰国を命じられました。

不許可の理由

マクリーン氏の在留資格更新が拒否された理由は複数あります。第一に、彼が当初の契約条件に違反し、英語教師としての職務をわずか17日で辞めたことが問題視されました。転職は認められているのですが、マクリーン氏は転職したにも関わらず届出をしていませんでした。さらに、マクリーン氏は「外国人べ平連」という団体に所属しており、この団体はベトナム戦争反対や日米安保条約反対などの立場を取っていました。マクリーン氏がこの団体の活動に参加していたことが、政治的活動として見なされ、入国管理局の判断に影響を与えました。

訴訟の経緯

マクリーン氏は、この決定に対して異議を唱え、訴訟を提起しました。訴訟の主な争点は、入国管理局の権限外国人の基本的人権の関係でした。訴訟は、まず地方裁判所で始まり、その後控訴審、さらに最高裁判所へと進みました。この過程で、マクリーン氏は日本の法制度とその解釈に挑戦しました。

この訴訟の問題点を整理!

・外国人には、日本に在留することを求める権利があるのか?
・裁判所が、法務大臣が行った在留期間の更新を判断する際に、どのような姿勢で審査をするべきなのか?
・日本に滞在する外国人には、日本国憲法の基本的人権が、どの程度保障されるのか?

最高裁判所の判決

1978年、最高裁判所はマクリーン氏に対する退去命令が正当であると判断しました。この判決が「マクリーン判決」として広く知られることになります。判決では以下のような要点が示されました。

マクリーン判決の内容

法務大臣の裁量権

判決では、外国人の在留資格やその期間については法務大臣に広範な裁量があるとされました。法務大臣は、外交関係や国内の労働市場などの要素を考慮し、在留資格の更新を適切と認めるかどうかを決定する権限を持っています。判決は、法務大臣の決定が重大な事実誤認がない限り尊重されるべきだとしました。

基本的人権の制限

マクリーン判決は、外国人の基本的人権が「外国人在留制度の枠内で与えられているだけだ」とする見解を示しました。つまり、外国人が在留資格を持たない場合、基本的人権の保障が制限されるという考え方が示されたのです。このため、外国人が在留資格の更新を希望する際には、法務大臣の裁量に従う必要があります。

判決のポイント整理!

・外国人には、憲法上、日本に在住することを要求する権利は保証されない。
・法務大臣には、在留期間の更新を判断することについて、広い裁量があり、裁判所はその判断が、全く事実に基づくものでない場合や、社会的にみて著しく妥当でないことが明らかであるような場合に限り、違法とすることができる。
・憲法が保障する基本的人権は、権利の性質上日本国民のみを対象とするものを除き、日本に滞在する外国人にも同じように及ぶが、これは外国人在留制度の枠内で与えられているにすぎない。

判決の影響

マクリーン判決は、日本における外国人の在留資格や権利に対する基準を示したものであり、その後の外国人に関する法律や判例に大きな影響を与えました。具体的には、以下のような影響が見られます。

入国管理局の権限と裁量

マクリーン事件の判決以降、入国管理局の在留資格に関する判断に対する裁量権が広く認められるようになりました。この判決は、入国管理局の決定に対して高い尊重を示しており、その後の多くの事例においても参照されています。例えば、在留資格がない外国人に対する強制送還や在留許可の取り消しが、入国管理局の裁量のもとで行われることが増えました。一方で、家族が日本で一緒に暮らす権利が制限されるケースもあり、これに対しては国際的な人権基準とのバランスが求められています。

マクリーン判決の批判

マクリーン判決は、その後の判例においても多くの批判を受けてきました。特に、外国人の基本的人権が制限されるという点については、人権団体や法律家からの批判が強いです。元最高裁判事は、「マクリーン判決を引用し続けるのは裁判所の怠慢だ」と批判しており、判決が現在の国際人権基準に合致していないという指摘があります。

国際人権条約との関係

また、マクリーン判決が国際人権条約に反しているとの批判もあります。日本は国際的な人権条約に加盟しており、家族の一緒に住む権利や子どもの権利を保障する義務がありますが、マクリーン判決の基準がこれらの条約に反しているとの指摘もあります。これにより、判決の見直しを求める声が高まっています。

今後の展望と改革の必要性

日本社会は、外国人の人口が増加し、多様性が進む中で、マクリーン判決の基準に依存し続けることは不適切だという声が高まっています。外国人の権利を適切に保障し、国際基準に沿った法的な枠組みを整えることが求められています。元最高裁判事は、裁判官に国際人権条約に関する研修を行うことや、国連の「個人通報制度」を導入することが有効な改善策になると提案しています。

また、マクリーン判決を基にした法律や規制の見直しが必要です。外国人の権利が適切に保障されるよう、法律の改正や制度の改革が進められることが望まれます。国際社会での信頼を築くためには、日本が国際的な人権基準に適応することが不可欠です。

まとめ

「マクリーン事件」は、外国人の在留資格に関する重要な判決であり、その影響は現在においても色濃く残っています。判決は法務大臣に広く裁量を認め、外国人の基本的人権の制限を正当化する基準を設けましたが、その内容には多くの批判も寄せられています。国際的な人権基準に合致する法的枠組みの整備が求められる中で、今後の裁判所や行政の対応が注目されています。

日本社会の多様性が進む中で、マクリーン判決の基準を見直し、外国人の権利を適切に保障するための改革が必要です。国際基準に沿った法的な枠組みを整えることで、日本が国際社会で信頼される国であり続けるための一歩を踏み出すことが求められています。