「技能実習」が「育成就労」に 新制度のポイントとその影響

2024年6月14日、参議院本会議で可決・成立した改正出入国管理法は、外国人労働者の「技能実習制度」を廃止し、「育成就労制度」を導入することを主要な柱としています。この法改正は、日本における外国人労働者の処遇を大きく変えるものであり、その意図と影響について詳しく見ていきましょう。

技能実習制度から育成就労制度へ

技能実習制度は、外国人が日本で技能を習得し、母国に持ち帰って産業発展に貢献するという名目で運営されてきました。しかし、実際には日本の労働力不足を補う手段として利用されることが多く、その実態と目的の乖離が指摘されていました。また、労働環境の悪さや人権侵害の問題も頻発し、制度の見直しが求められていました。

これに対し、新たに導入される育成就労制度は、外国人労働者を労働力として迎え入れつつ、労働者としての権利を守ることを目的としています。この制度では、外国人労働者が3年間で専門的な技能を習得し、「特定技能」資格を取得することを目指します。

技能実習 育成就労
目的 国際貢献 人材育成・確保
在留期間 最長5年 3年→「特定技能」習得へ
※「特定技能2号」を取得すれば、事実上永住が可能

新制度のポイント

1. 在留資格と目的

育成就労という新たな在留資格が設けられ、外国人労働者は日本での就労を通じて技能を習得し、一定の専門性を持つ在留資格「特定技能」を取得することが求められます。これにより、労働者が日本で長期的に働き続けることが可能になります。

2. 資格取得の要件化

技能実習制度では不要だった初級レベルの日本語試験や講習が必要となり、特定技能への移行にはさらに高度な日本語試験や業務に関する資格試験の合格が求められます。特定技能2号になれば在留資格の更新に上限がなく、事実上日本に住み続けることが可能となります。

3. 転籍の可能性

新制度では、働く場所を変える「転籍」が一定の要件の下で認められます。技能実習制度では原則として転籍が認められておらず、多くの実習生が不満を抱えていましたが、新たな制度では、労働者の人権に配慮し、業務分野が同じであれば転籍が可能となります。

4. 監理支援機関の設置

旧制度で監理団体が果たしていた役割は、新制度では「監理支援機関」に引き継がれます。この機関は外部からの監査人を配置し、適正な実習環境を監督する役割を担います。

5. 永住許可の取り消し

新制度では、故意に納税を怠るなどの行為に対して永住許可を取り消すことができる規定が追加されました。この規定には生活状況などに配慮することが付則に盛り込まれていますが、一部の外国人や支援団体からは懸念の声も上がっています。

改正法の期待と懸念

この法改正に対する意見はさまざまです。賛成派は、人権問題を抱えた技能実習制度の改善が必要不可欠であり、育成就労制度がその一歩になると評価しています。一方、反対派は、新制度が永住資格の取り消しなどで外国人労働者の権利を侵害する恐れがあると批判しています。

たとえば、技能実習生の支援に携わるあるNPO法人の代表は、「新しい制度が本当に日本で働きたい人のために作られたことは良いが、監理支援機関の実効性には課題がある」と指摘しています。

また、外国人労働者の転籍問題についても課題が残っています。たとえば、在留資格「特定技能」で働く外国人からは、転籍後も適切に就労できないなどのトラブルが多く報告されています。こうした問題は、新たな育成就労制度でも発生する可能性があると懸念されています。

企業側の対応と課題

企業側にとっては、新制度の導入は人材確保の一助となる反面、負担も増加します。外国人労働者の育成や教育に関するコストが増え、日本語や業務スキルの試験に合格させるためのサポートも求められます。

外国人労働者を受け入れている企業の担当者は、「試験に落ちたら、さようならというのはもったいない。作業中にも教えながら合格できるようにしたい」と話しています。また、転籍が増えることで、次の労働者を待つ期間が長くなり、業務に影響が出ることを懸念しています。

さいごに

改正出入国管理法により導入される育成就労制度は、日本の労働力不足を補うだけでなく、外国人労働者の権利を守り、彼らが日本で長期的に働き続ける道を開くものです。しかし、実効性の確保や企業側の負担増など、課題も多く残っています。

日本が今後、国際的な人材獲得競争において選ばれる国となるためには、政府と企業が一体となって外国人労働者の受け入れ体制を整備し、彼らの権利を尊重しつつ、働きやすい環境を提供することが求められます。これこそが、日本が真に多様性を受け入れ、国際的な競争力を維持するための鍵となるでしょう。

▷参考:NHKニュース『「技能実習」が「育成就労」に 参院で可決 新制度のポイントは』


なお、当事務所の代表は日本語教師歴10年以上の経験を持ち、日本語研修やマナー研修を行うことが可能です。外国人労働者の方々が円滑に業務に取り組めるよう、お手伝いできればと考えております。ご依頼やご相談は、下記のコンタクトフォームからお気軽にお問い合わせください。

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