ニュース:日本語教師・国家資格化!しかし現状は・・・

2024年4月、日本語教師が外国人に日本語を教えるための国家資格制度が導入されました。この改革は、増加する外国人が日本でスムーズに生活できるよう、日本語教育の質を高めることを目的としています。しかし、現場の日本語教師や日本語学校からは、困惑の声も多く聞かれます。もともと低賃金で非正規雇用が多い現状に加え、国家資格取得という新たなハードルが生じたためです。さらに、日本語教育の現場の多くがボランティアによって支えられている中、この国家資格化がどのような影響をもたらすのか、懸念の声が広がっています。

国家資格化で教師の数が減る可能性?

老舗の日本語学校の代表は、新制度により日本語教師の社会的地位が向上することを歓迎しつつも、多くの教師が新たな試験勉強やテストに負担を感じ、職を辞することを懸念しています。実際、日本語教師の約半数が50代以上という高齢化が進んでおり、新しい試験勉強やテストに挑むことに負担を感じる教師が少なくありません。これにより、一時的に日本語教師の数が減る可能性が指摘されています。

高齢化の現状
文化庁の令和4年度日本語教育実態調査のデータによると、50代以上の日本語教師は、全体の54%以上を占めており、20代・30代の日本語教師は、わずか13%ほどです。

非常勤・薄給の実態

文化庁の令和4年度日本語教育実態調査のデータによると、日本語教師のうち49%がボランティア、36.1%が非常勤、常勤はわずか14.9%です。非常勤の年収は100万~200万円、常勤でも300万円前後という低待遇が若い世代の参入を阻んでいます。このため、20代の日本語教師は全体の5.4%に過ぎません。

日本語教師の過酷な労働環境

日本語教師の仕事は授業だけではなく、学校の事務、留学生の生活相談など多岐にわたります。さらに、留学生の在籍管理も重要な業務となっており、不法残留者の割合を低く保つために面談や訪問を繰り返すなど、時間を取られる業務が多いのが現状です。

日本語教育の収入構造とその限界

日本語学校の収入源は留学生の学費のみですが、途上国からの学生が多いため学費を上げるのは難しい状況です。また、留学生の数は国際情勢に左右されるため、常勤講師を多く雇用することが難しいという現実があります。そのため、非常勤講師が調整弁として重用される傾向があります。

日本語学校の管轄変更:法務省から文部科学省へ・・・教師は二重の負担

日本語学校の管轄が法務省から文部科学省に移ったことで、日本語学校は新たに文科省から認定を受ける必要が生じました。これにより、認定を受けた学校で働けるのは「登録日本語教員」のみとなります。

また、日本語学校のカリキュラムには「日本語教育の参照枠※1)」が導入され、タスクベースの教え方が求められるようになります。つまり、テスト対策の授業ではなく、この国でどう暮らしていくのか、より実践的でコミュニケーション重視の日本語を教えていくことになるのです。このため、現場の教師たちは新しい教育方法に適応しつつ、進学や就職に必要なJLPT(日本語能力試験)対策のカリキュラムも維持するという二重の負担を抱えることになります。

※1日本語教育の参照枠とは
CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠※2
を参考に、日本語の習得段階に応じて求められる日本語教育の内容・方法を明らかにし、外国人等が適切な日本語教育を継続的に受けられるようにするため、日本語教育に関わる全ての者が参照できる日本語学習、教授、評価のための枠組み。

※2ヨーロッパ言語共通参照枠枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages):欧州評議会によって20年以上にわたる研究と検証の末に開発され2001年に公開された。現在では40もの言語で翻訳されている。また、CEFR は言語資格を承認する根拠にもなるため、国境や言語の枠を越えて、教育や就労の流動性を促進することにも役立っている。 

▷参考:令和3年10月12日  文化審議会国語分科会 資料「日本語教育の参照枠 報告」

地域の日本語教室とボランティアの役割

新制度の対象はあくまで日本語学校で働く教師ですが、日本語教師の半数は地域の日本語教室などでボランティアとして活動しています。こうした教室では、日本語を学ぶ場の乏しい技能実習生や、親や夫の仕事の都合で日本に来たばかりの妻子などが学んでいます。地域の日本語教室は、外国人が日本社会に溶け込むための重要な役割を果たしており、これらの場が新制度によって置き去りにされないようにすることが求められています。

現場の思いは・・・

インターネット上のコメントの中には、制度の経過措置に関する問題や、現場の教師たちが直面する具体的な課題についての指摘が多々あります。たとえば、現職経験年数の計算方法により、2019年4月以前のキャリアが反映されないことや、授業の担当回数に関する不公平な条件についての意見がありました。これにより、ベテラン日本語教師に不利な状況が生じる可能性があると指摘されています。

また、元日本語教師や現役の日本語教師からは、労働条件の厳しさや低い給与に対する不満の声も多くありました。日本語教師の仕事は高い専門性を求められるにもかかわらず、待遇が改善されないため、若い世代には勧められない職業だという意見が多くを占めていました。

元日本語教師の意見として

私は国内の日本語学校で、非常勤講師としても常勤講師としても勤務したことがあります。最初の数年間は非常勤講師として働いていました。当時、日本語教師になったばかりで経験が浅かったため、授業準備に追われる毎日でした。寝る時間を削りながら、休日も指導力を高めるためにセミナーに参加したり、新しい教授方法を研究したりしていました。20代だったこともあり、若さでなんとか乗り切っていたのですが、2年目に病気になり、3ヶ月ほど休職せざるを得ませんでした。過労が原因かどうかは不明ですが、あきらかに働き過ぎていたと感じます。

非常勤講師としての仕事に慣れてくると、授業準備も少なくなり、自分の時間を持つことができるようになりました。しかし、常勤講師としての勤務は全く異なるものでした。授業をするだけでなく、学生の出席管理や生活態度の悪い学生への指導、教材研究や資料準備、さらには学校のイベント企画や運営など、多岐にわたる業務をこなさなければなりませんでした。これらの業務は非常に大変でしたが、その分やりがいも感じていました。

とはいえ、業務量と給料が見合っていないと感じることも多々ありました。やりがいがある一方で、負担の大きさや労働条件の厳しさに不満を感じることも少なくありませんでした。これが、日本語教師としての現実の一端です。

新制度の導入により、これらの課題がどのように変わるのか、期待と不安が入り混じっています。私のように経験を積んできた教師たちにとっても、また新たにこの道を目指す人たちにとっても、より良い環境が整うことを願っています。

さいごに

新制度の導入は、日本語教育に大きな変革をもたらすと同時に、多くの課題を抱えています。国家資格を取得した日本語教師が、技能実習生の受け入れ企業や小中学校、地域の日本語教室などで活躍することで、日本語教育の質が向上し、外国人が日本社会によりスムーズに溶け込むことが期待されます。そのためには、文科省をはじめとする関係機関のサポートが欠かせません。

日本語教師という仕事は、日本社会においてますます重要な役割を果たしていくでしょう。国家資格化を契機に、教師たちが誇りを持って働ける環境を整えることが、これからの日本語教育にとって不可欠です。


▷参考:Yahoo!ニュース「4月から国家資格化の日本語教師、薄給と激務、非正規雇用、高齢化の実態」