近年、日本の観光地において「オーバーツーリズム」と呼ばれる現象が問題視されています。
オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズムとは、観光客が集中しすぎることにより、地元住民の生活に悪影響を与える現象です。具体的には、公共交通機関の混雑、交通渋滞、私有地への不法侵入、ごみのポイ捨てなどが挙げられます。これにより、地元住民の生活が圧迫されるだけでなく、観光地の魅力そのものも損なわれてしまいます。
特にコロナ禍からの観光需要の急速な回復に伴い、この問題が一層顕在化しています。この記事では、観光庁が進めるオーバーツーリズムの防止・抑制策やモデル地域の選定について詳しくまとめています。
オーバーツーリズムの現状
日本各地の観光地では、観光客の増加により様々な問題が発生しています。例えば、北海道のある町では美しい風景を撮影するために農地への無断立ち入りが頻発し、神奈川県鎌倉市では人気アニメの影響で踏切周辺に観光客が集中し、公道が混雑する事態となっています。京都市では舞妓や芸妓を無断で撮影する観光客が問題となっています。
観光庁の取り組み
観光庁は、オーバーツーリズムの防止や抑制に向けた対策を進めるモデル地域を選定し、国の支援を拡大する方針を示しています。今年3月には箱根(神奈川県)や白川郷(岐阜県)など全国20地域をモデル地域として選定し、7月にはさらに追加のモデル地域を選定する予定です。これらのモデル地域では、地元住民や関係者が参加する協議の場が設けられ、地域の実情に応じた対策が進められます。
具体的な対策
観光庁が示した対策には以下のようなものがあります。
- 観光客の分散:
- 観光地の混雑を避けるため、観光客を地方部へ誘導する施策が取られています。例えば、鉄道運賃の変動制を導入し、混雑状況に応じて運賃を調整することや、観光地直結の急行バスの導入が検討されています。
- マナー違反対策:
- 観光客に対するマナー教育が強化されています。例えば、日本を訪れる前から禁止事項を示す統一ピクトグラムを策定し、世界的な旅行ガイドに掲載することや、私有地への無断侵入を防止するために防犯カメラの設置が支援されています。
- 観光地の混雑状況のリアルタイム配信:
- 観光スポットやその周辺の混雑状況をリアルタイムで配信することで、観光客の流れをコントロールし、過度な集中を防ぐ取り組みが進められています。
モデル地域の取り組み
モデル地域では、観光客と地元住民の共存を目指し、持続可能な観光地域づくりが推進されています。例えば、神奈川県の箱根では、観光地の魅力を維持しつつ、観光客の行動をコントロールするための施策が進められています。また、岐阜県の白川郷では、世界遺産としての価値を保ちながら、観光客と地域住民の調和を図る取り組みが行われています。
専門家の見解
観光分野の専門家は、オーバーツーリズムの対策には実証実験が重要であると指摘しています。実証実験を通じて、具体的な対策がどのような効果をもたらすかを分析し、その結果を基に本格的な対策を講じることが求められます。また、観光事業者だけでなく、地域住民の意見を取り入れることも重要です。地域住民と観光事業者が協力し合い、持続可能な観光の実現を目指すことが必要です。
持続可能な観光への道
観光庁は、持続可能な外国人観光客の受け入れを目指し、モデル地域の先駆的な取り組みを周知することを検討しています。観光地の魅力を保ちながら、観光客と地元住民が共存できる環境を整えることが、今後の観光振興にとって不可欠です。
▷参考:観光庁による資料「オーバーツーリズムの未然防止・抑制による持続可能な観光推進事業」pdf
世界の事例から学ぶ
オーバーツーリズムに対する対策は、世界中で試みられています。例えば、イタリアのベネチアでは、訪問者数を制限するための予約システムが導入されています。また、アムステルダムでは、観光客に対するマナー教育を強化し、地域住民との共生を図る取り組みが進められています。これらの事例から学び、日本でも効果的な対策を講じることが求められます。
今後の展望と課題
オーバーツーリズムの問題は、一朝一夕に解決できるものではありません。しかし、観光庁が新たにモデル地域を選定し、具体的な対策を進めることは、大きな一歩となるでしょう。今後は、実証実験を通じて得られた知見を基に、全国的に対策を展開することが重要です。また、地域住民と観光事業者が協力し合い、持続可能な観光を実現するための取り組みを進めることが求められます。
さいごに
オーバーツーリズムの問題は、観光地の魅力を損なうだけでなく、地元住民の生活にも深刻な影響を及ぼします。観光庁が新たにモデル地域を選定し、具体的な対策を進めることは、この問題を解決するための重要な一歩です。地域住民と観光事業者が協力し合い、持続可能な観光を実現するための取り組みを進めることが求められます。今後も、実証実験を通じて得られた知見を基に、全国的な対策を進めていくことが必要です。持続可能な観光の実現に向けて、地域全体が一丸となって取り組むことが求められます。
オーバーツーリズムの問題に対処するためには、観光客の分散化、マナー教育の強化、地域住民との共生など、さまざまな対策が必要です。これらの取り組みを通じて、地元住民と観光客の双方が快適に過ごせる環境を整え、持続可能な観光を実現することが求められます。観光庁のモデル地域選定とその取り組みが、日本全国の観光地に広がり、オーバーツーリズムの問題が解消されることを期待します。