2024年7月3日、日本では20年ぶりに新しい紙幣の流通が開始されました。私たちが普段何気なく使っている紙幣ですが、その裏には驚くべき物語がありました。この新紙幣の原料として使用されているのが「ミツマタ」という樹木です。しかし、このミツマタは、国内では調達できなくなってしまいました。その背景には、高齢化や生産量の減少といった問題があります。そこで注目されたのが、遠く離れたネパールです。
ミツマタの驚くべき特性
ミツマタはヒマラヤを原産とする樹木で、繊維が柔軟で強く、紙にすると独特の光沢が出るため、明治時代以降、紙幣の原料として重宝されてきました。この特性を持つミツマタを日本に輸出するために尽力しているのが、日本の政府刊行物の販売などを行う会社です。この会社の社長は、10年以上にわたりネパールを訪れ、現地の農家と協力してミツマタの栽培を推進してきました。
ミツマタは、和紙の原料としても知られています。和紙はその強度と美しさから、日本の伝統工芸品として世界中で評価されています。ミツマタの繊維は、手触りが滑らかでありながらも非常に強靭で、長持ちするため、高品質の紙を作るのに最適です。また、ミツマタの木は春になると美しい黄色い花を咲かせることでも知られており、日本国内でも観賞用として人気があります。
ネパールのミツマタ栽培
ネパールの首都カトマンズから車で7時間以上かかるヒマラヤ山脈のふもとの村々では、ミツマタの栽培が行われています。秋に収穫されたミツマタは、冬の間に冷たい水にさらし、乾燥させる過酷な作業が必要です。しかし、この作業を通じて得られる現金収入は、山間部で暮らす人々にとって貴重なものとなっています。
ネパールは、多様な気候帯と地形を持つ国であり、農業が主な産業です。ミツマタの栽培は、特に高地での農業活動として重要な位置を占めています。ヒマラヤ山脈のふもとで育つミツマタは、その特性から他の地域で栽培されたものよりも質が高いと評価されています。現地の農民たちは、ミツマタの栽培を通じて生活の向上を図っており、特に貧困地域における経済的な安定にも寄与しています。
日本とネパールの絆
ミツマタの栽培は、単に紙幣の原料を提供するだけでなく、ネパールの貧困削減にも寄与しています。2015年のネパール大地震で多くの農家が被災し、一時はミツマタの生産が激減しましたが、生産量は次第に回復し、現在では1000人以上の住民がミツマタの生産に関わっています。
ネパールのミツマタの輸出量は、ここ10年間で大幅に増加しました。10年前には約30トンだった輸出量が、現在では100トンにまで増えています。これは、ネパール政府と日本の協力により、持続可能な農業実践と輸出市場の開拓が成功した結果です。この成功は、他の発展途上国にもモデルケースとして参考にされています。
日本の政府刊行物の販売などを行う会社の社長は、「当初はネパールの貧困対策のためと思って取り組んできました。しかし、今やネパールのミツマタがなければ日本の紙幣が作れない状況です。ネパールのみなさんが作ったミツマタが日本の経済を支えている。まさにウィンウィンの関係だと思います」と述べています。
新紙幣とネパールの未来
この新紙幣の流通開始は、日本とネパールの友好関係をさらに深めるきっかけとなりました。新紙幣を手にするたびに、遠くネパールでミツマタを栽培する人々の努力と、それによって築かれた絆を思い出すことが大切です。この新紙幣は、単なるお金の交換手段としてだけでなく、国際的な協力と支え合いの象徴としての意味も持っています。
さらに、ネパールのミツマタ産業は、持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献しています。特に、貧困削減(SDG1)と持続可能な産業・技術革新の基盤構築(SDG9)において、その役割が評価されています。ネパールの農村部でのミツマタ栽培は、現地の経済発展と環境保護の両立を目指した取り組みとして、国際社会からも注目されています。
さいごに
新紙幣の原料をめぐって支え合う日本とネパールの絆は、新しい時代の到来を感じさせます。日本の政府刊行物の販売などを行う会社の社長は、「新紙幣を手に取ったときには、ネパールの農家の人々のことも思い出してほしい」と話しています。この新紙幣が、日本とネパールの友好関係をさらに深める一助となることを期待しています。
新紙幣の発行がもたらす影響は、日本国内にとどまらず、国際的な協力の一環として評価されるべきものです。経済活動の一部としての紙幣が、遠くネパールの人々の生活に直接的な影響を与えているという事実は、私たちにとっても大きな教訓となります。このような国際的な協力が、今後もさらに広がり、多くの国と地域で新たな絆を築いていくことを願っています。