愛媛県今治市の縫製会社で働いていたミャンマーの技能実習生が、実習内容と異なる仕事を強いられ、在留資格を無断で変更されたというニュースが報じられました。この事件は、日本の技能実習制度の問題点を浮き彫りにしています。この記事では、この事件の詳細を掘り下げるとともに、日本の技能実習制度全体の課題と、新たに導入される「育成就労制度」についても考察します。
ミャンマーの実習生の訴え
2022年にミャンマーから来日した6人の女性技能実習生は、当初「婦人服や子ども服の製造」を学ぶ予定でした。しかし、実際にはタオルの製造を行わされ、さらに在留資格が「特定活動」に無断で変更され、より広範な業種での労働を強いられました。これにより、彼女たちは2023年5月までに退職し、最後の1カ月分の賃金が支払われないという事態に直面しました。
この問題に対して、支援する労働組合「JAM」(※1)は、企業に対して賃金の未払いを含む真摯な対応を求めています。JAMの会長は、「外国人技能実習生も我々と同じ人間であり、日本人と同じ労働者という認識があれば、このようなことは起きない」と述べ、日本全体で意識を変える必要性を訴えました。
※1 労働組合「JAM」とは?
機械・金属産業を中心とする産業に働く39万人が結集する、産業別労働組合。
技能実習制度の現状と問題点
技能実習制度は1993年に日本で導入され、発展途上国の人々が技術を学び、母国に持ち帰ることを目的としています。しかし、この制度はしばしば低賃金労働力としての利用が問題視されています。実習生が不当な労働条件や人権侵害にさらされるケースが多く報告されており、実習内容が契約と異なる場合や、在留資格が無断で変更されるケースも少なくありません。
例えば、全国の労働組合が行った調査によると、多くの技能実習生が過酷な労働環境に置かれ、賃金未払い、長時間労働、劣悪な住環境などの問題に直面しています。これらの問題は、日本社会全体の認識や対応が問われるべき重要な課題です。
育成就労制度の導入
2024年6月14日、参議院本会議で可決・成立した改正出入国管理法は、技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労制度」を導入することを決定しました。この法改正は、日本における外国人労働者の処遇を大きく変えるものであり、その意図と影響について詳しく見ていきましょう。
育成就労制度は、外国人労働者を労働力として迎え入れつつ、労働者としての権利を守ることを目的としています。この制度では、外国人労働者が3年間で専門的な技能を習得し、「特定技能」資格を取得することを目指します。なお、技能実習制度と育成就労制度の比較については、こちらの記事でもまとめています。
改正法の期待と懸念
この法改正に対する意見はさまざまです。賛成派は、人権問題を抱えた技能実習制度の改善が必要不可欠であり、育成就労制度がその一歩になると評価しています。一方、反対派は、新制度が永住資格の取り消しなどで外国人労働者の権利を侵害する恐れがあると批判しています。
例えば、技能実習生の支援に携わるあるNPO法人の代表は、「新しい制度が本当に日本で働きたい人のために作られたことは良いが、監理支援機関の実効性には課題がある」と指摘しています。
また、外国人労働者の転籍問題についても課題が残っています。たとえば、在留資格「特定技能」で働く外国人からは、転籍後も適切に就労できないなどのトラブルが多く報告されています。こうした問題は、新たな育成就労制度でも発生する可能性があると懸念されています。
企業側の対応と課題
企業側にとっては、新制度の導入は人材確保の一助となる反面、負担も増加します。外国人労働者の育成や教育に関するコストが増え、日本語や業務スキルの試験に合格させるためのサポートも求められます。
外国人労働者を受け入れている企業の担当者は、「試験に落ちたら、さようならというのはもったいない。作業中にも教えながら合格できるようにしたい」と話しています。また、転籍が増えることで、次の労働者を待つ期間が長くなり、業務に影響が出ることを懸念しています。
さいごに
ミャンマーの技能実習生が直面した問題は、日本の技能実習制度全体の課題を浮き彫りにしています。労働環境の改善、法的保護の強化、そして日本人の意識改革が必要です。これにより、技能実習制度が本来の目的を果たし、実習生が安心して学び働ける環境が整うでしょう。
改正出入国管理法により導入される育成就労制度は、日本の労働力不足を補うだけでなく、外国人労働者の権利を守り、彼らが日本で長期的に働き続ける道を開くものです。しかし、実効性の確保や企業側の負担増など、課題も多く残っています。
日本が今後、国際的な人材獲得競争において選ばれる国となるためには、政府と企業が一体となって外国人労働者の受け入れ体制を整備し、彼らの権利を尊重しつつ、働きやすい環境を提供することが求められます。これこそが、日本が真に多様性を受け入れ、国際的な競争力を維持するための鍵となるでしょう。
▷参考:FNNプライムオンラインニュース「ミャンマーの実習生「実習内容変え在留資格を無断で変更」今治の縫製業者に賃金未払いも【愛媛】 」