今や、日本は超高齢社会となり、認知症の高齢者も増加しています。そのため、最近問題になっているのが「認知症による財産凍結」です。
認知症になると、預貯金が引き出せなくなったり、不動産などの財産が使えなくなったりすることを指します。財産が凍結されると、認知症の高齢者本人だけでなく、介護をする家族の生活にも大きな影響が出ます。
最近は「終活」ブームで、自分が亡くなった後の「相続」について考える人が増えていますが、認知症対策についてはあまり考えられていないのが現状です。私も認知症の母を数年間介護していました。そのため、「自分が認知症になったらどうしよう・・・。」という漠然とした不安を常に抱えていました。今後は「おひとりさま」の高齢者が増えることが予想されるため、相続対策だけでなく、認知症対策も多くの方々が検討しておく必要があります。
そこで、数回にわたって「認知症対策」についての記事をまとめていくことにしました。多くの方々に読んでいただければ幸いです。
認知症対策記事一覧
今回の記事では、認知症について、また認知症による財産凍結についてまとめました。
超高齢社会の現状
内閣府の発表によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症になると予想され、その人数は700万人に達するとされています。認知症の高齢者が増えるとともに、介護、事故、行方不明、孤独死、財産凍結など、さまざまな問題も顕著になってきました。これに対して、まだ社会全体で十分に対応できていないのが現状です。
政府は「認知症バリアフリー」を掲げ、認知症になっても住み慣れた地域で自分らしく暮らせる共生社会を目指していますが、その取り組みはまだ十分ではありません。国の制度や民間サービスだけでは「認知症バリアフリー」の社会を実現するのは難しいでしょう。私たち一人ひとりが問題意識を持つことが大切です。そのためには、まず「自分が認知症になったらどうしよう」と考え、認知症予防に加えて財産凍結への対策も事前に講じておくことが重要です。
認知症とは?
認知症とは、さまざまな原因で記憶や思考などの認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたす状態のことです。認知症の特徴として次の3点が挙げられます:
- 脳に器質的な障害があり、認知機能が低下している
- 意識がはっきりしている
- 認知機能の障害とともに、感情、意欲、行動に変化があり、日常生活に支障をきたす
高齢になるほど認知症の発症リスクは高まりますが、高齢者だから必ず認知症になるとは限りません。
認知症の種類
認知症には大きく以下の4つに分類されます:
- 【脳細胞の変化によって起こるもの】
- アルツハイマー型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
- 【脳梗塞や脳出血などによって起こるもの】
- 脳血管性認知症
上記以外にも、脳腫瘍や正常圧水頭症、感染症などの疾患による認知症もあります。
認知症の症状
- 中核症状:認知症を発症した場合に必ず現れる症状
- 例1)記憶障害:物事を覚えられなくなったり、思い出せなくなったりする。
- 例2)理解・判断力の障害:考えるスピードが遅くなる。家電やATMなどが使えなくなる。
- 例3)実行機能障害:計画や段取りを立てて行動できない。
- 例4)見当識障害:時間や場所、やがて人との関係がわからなくなる。
- 行動・心理症状(BPSD):本人の生活環境や性格などによって二次的に引き起こされる症状で、現れないこともある
- 例1)せん妄:落ち着きなく家の中をうろうろする、独り言をつぶやくなど。
- 例2)抑うつ:気分が落ち込み、無気力になる。
- 例3)人格変化:穏やかだった人が短気になるなどの性格変化。
- 例4)幻覚:見えないものが見える、聞こえないものが聞こえるなど。
- 例5)行方不明:歩き回って、帰り道がわからなくなる
上記以外にも、妄想や暴力行為などさまざまな症状があります。BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は多岐にわたります。
認知症の診断方法
一般的に、以下のように認知症を診断します:
- 心理的テスト・問診(精神検査)
- 認知症であるかどうかを客観的に判断します。
- 代表的な検査方法には、以下の2つがあります:
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- ミニメンタルステート検査(MMSE)
- 原因疾患を診断する
- 精神検査や神経学的検査、身体検査(頭部CT、MRIなどの画像検査や血液検査など)を行います。
認知症の約68%を占めるアルツハイマー型認知症が最も多いとされています。
- 精神検査や神経学的検査、身体検査(頭部CT、MRIなどの画像検査や血液検査など)を行います。
財産凍結について
高齢化が進むにつれて、認知症の高齢者も増加しています。自分や家族、親戚などに1人は認知症の高齢者がいてもおかしくない状況です。他人事ではありません。
認知症の高齢者が増えたことで、さまざまな社会問題が顕著になっています。その一つが「財産凍結」の問題です。
高齢者が持っている預貯金・不動産などの財産が、認知症等による判断能力の低下・喪失によって凍結される(使えなくなる・動かせなくなる)ことを指します。
例えば、以下のようなことができなくなります:
- 預貯金の引き出し
- 定期預金の解約
- 不動産の売却、賃貸、リフォーム
- 株式や投資信託の売却
- 相続税対策(生前贈与など)
- 遺産分割協議
原則として、親の財産は親が生きているうちは親本人にしか管理や処分ができません。いくら子どもでも、親の預貯金の引き出しや不動産の売却などは代わりにできません。
事前に「財産凍結」の対策をしていなかった場合、事後的に「法定後見制度」を利用するしかありません。認知症を発症してしまった場合、「財産凍結」の対策をすることは非常に困難となります。そのため、まだまだ親が元気なうちに、事前対策をしておくことが重要です。
どうして認知症になると、財産凍結されるのか?
- 認知症により判断能力が低下する
- 判断能力がない状態で行われた法律行為は無効となる
民法 第3条の2
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする。
判断能力がなくなってしまうと、自分で財産の手続きをすることができなくなります。これが「財産凍結」です。
だれが“判断能力がない”と決める?
法律上、「判断能力のある・なし」の判定を誰が、いつ、どのようにするのか、明確に決まっていません。そのため、ケースバイケースで判断していくしかありません。
- だれが判断能力の有無を決める?
- 一般的には、「医師」が思い浮かびます。医師が作成した診断書や意見書に判断能力について言及されていれば、それは証拠となります。しかし、医学的な判断と法律的な判断では、判断能力について異なる結論となることもあります。
- 現実の多くのケースでは、以下のような方々が個別に判断をしています:
- 法律行為の相手方(売買契約の買い主など)
- 専門家(行政書士などの士業)
- 公証人
- 金融機関の担当者など
- どのように判断能力の有無を決める?
- それぞれの法律行為ごとに判断されます。例えば、遺言書を作成できる判断能力はあるが、不動産を売却する判断能力は認められないといったケースもあります。
さいごに
日本は急速に高齢化が進み、認知症の高齢者が増え続ける中で、財産凍結という問題がますます顕著になっています。財産凍結のリスクを回避するためには、認知症の予防だけでなく、事前の対策が重要です。個人や家族が認知症に備え、適切な準備をすることが必要不可欠です。私たち一人ひとりが問題意識を持ち、早めに対策を講じることが、より安心して暮らせる社会の実現につながります。
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