認知症対策③ 任意後見制度~認知症になる前の対策1~

任意後見制度のブログ

今や、日本は超高齢社会となり、認知症の高齢者も増加しています。そのため、最近問題になっているのが「認知症による財産凍結」です。

財産凍結とは?
認知症になると、預貯金が引き出せなくなったり、不動産などの財産が使えなくなったりすることを指します。財産が凍結されると、認知症の高齢者本人だけでなく、介護をする家族の生活にも大きな影響が出ます。

最近は「終活」ブームで、自分が亡くなった後の「相続」について考える人が増えていますが、認知症対策についてはあまり考えられていないのが現状です。私も認知症の母を数年間介護していました。そのため、「自分が認知症になったらどうしよう・・・。」という漠然とした不安を常に抱えていました。今後は「おひとりさま」の高齢者が増えることが予想されるため、相続対策だけでなく、認知症対策も多くの方々が検討しておく必要があります。

そこで、数回にわたって「認知症対策」についての記事をまとめていくことにしました。多くの方々に読んでいただければ幸いです。

 

認知症対策記事一覧

今回の記事では、任意後見制度についてまとめました。

成年後見制度とは?

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な人々が、適切なサポートを受けることで、その権利や生活を守るための法律制度です。この制度には以下のような支援があります。

  • 財産管理:銀行取引、不動産の管理、遺産分割協議など
  • 身上保護:介護・福祉サービスの契約、施設入所の手続きなど

これにより、本人が詐欺や悪質商法の被害に遭うことを防ぎ、本人の利益を最大限に守ります。詳細については、厚生労働省の成年後見制度のページをご覧ください。

成年後見制度の種類

成年後見制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つに分けられます。

・法定後見制度(認知症になったの対策)
判断能力が低下したとき、家庭裁判所によって、成年後見人等が選ばれる制度です。障害や認知症の程度に応じて、「補助」「保佐」「後見」の3つの種類があります。家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって、本人を保護・支援します。
・任意後見制度(認知症になるの対策)
ひとりで決められるうちに、認知症や障害の場合に備えて、あらかじめ本人自らが選んだ人(任意後見人)に、代わりにしてもらいたいことを契約(任意後見契約)で決めておく制度です。

法定後見制度と任意後見制度との違いは、「だれが後見人を選んでいるか」という点です。法定後見制度では、家庭裁判所が成年後見人等を選びます。そのため、必ずしも家族が成年後見人に選ばれるとは限らず、弁護士などの専門家が選ばれることもあります。一方、任意後見制度は、元気なうちに自分で任意後見人を選ぶことができます。

任意後見制度とは?

任意後見制度は、本人が判断能力が十分にあるうちに、将来の判断能力低下に備えて後見人を選び、契約を結んでおく制度です。この制度の特徴は、後見人の権限の範囲を自由に設定できる点にあります。契約の効力は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で発生します。この任意後見監督人には、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれ、任意後見人の事務を監督し、その内容を定期的に家庭裁判所に報告します。

任意後見利用開始の流れ

任意後見制度の利用開始には以下の手続きがあります。

【任意後見制度のイメージ】

▷参照:「成年後見はやわかり」

①任意後見受任者の決定

まずはじめに、任意後見受任者を決めます。

任意後見受任者とは?
本人と任意後見契約を締結し、本人の判断能力が低下したときに、財産管理などを行う予定の人のことです。つまり、「任意後見人」になる人のことです。
だれが「任意後見受任者」になれる?
任意後見受任者には、だれでもなることができます。本人が「この人なら任せられる」と選んだ人なので、法律で制限することは適当ではないとされています。そのため、家族はもちろんのこと、弁護士などの専門家や法人を選ぶことも可能です。

また、任意後見受任者(のちの任意後見人)が先に亡くなる場合もあるため、その対応策として、任意後見受任者を複数決めておくことがおすすめです。また、法人にしておくことで、亡くなるというリスクそのものをなくすことができます。

②契約内容を決める

次に、任意後見契約の内容を決めます。主に以下の点に注意して契約内容を決めましょう。

1)代理権について
自分の財産管理や身上保護を第三者が行う際の代理権とその範囲を決めておく必要があります。
代理権の範囲については、「代理権目録」という書類を作成して、具体的な範囲を明記しておきます。この範囲は本人が自由に設定することができます。

2)人生設計(ライフプラン)の作成
これは、本人がどのような介護を受けたいか、どのような施設に入りたいかなどの本人の希望や意向をまとめたものです。これは、必ず作成しなければいけないものではありませんが、任意後見人のためにも作成したほうがいいと言われています。

3)報酬について
家族を任意後見人とするときは、無報酬とする場合が多いですが、任意後見人に報酬を支払うことは可能です。任意後見契約書において、報酬額や支払い方法を決めておきましょう。
たとえば、弁護士などの専門家を任意後見人とする場合、基本的には報酬を設定しておきます。ケースによって変わりますが、月額3~5万円程度を設定するのが一般的です。

4)報告について
任意後見契約書の中で、任意後見人が事務処理の状況について、定期的に任意後見監督人に報告するという旨を定めておく必要があります。法律で報告の頻度について明記されていませんが、3ヶ月に1回程度が一般的です。
これは、任意後見監督人が定期的に任意後見人の事務について家庭裁判所に対して報告するためです。

③任意後見契約の締結

任意後見契約は、公証人の作成する公正証書によって結ぶものとされています。そのため、基本的には、公証役場において、公証人の前で締結しなければなりません。(ただし、病気や高齢などの理由で外出が難しい場合、自宅や病院に公証人が出張してくれることもあります。)

④任意後見契約の登記

任意後見契約は、契約締結時に契約内容が登記されます。

⑤本人の判断能力が低下

認知症や障害などによって、本人の判断能力が低下します。

⑥任意後見監督人選任の申立て

本人の判断能力が低下したら、家庭裁判所に対して、任意後見監督人の申立てを行って、任意後見監督人が選ばれたら、任意後見が開始されます。それでは、申立ての流れを確認しましょう。

【任意後見監督人選任の申立ての流れ】

1)申立て書類の作成・準備
A:申立てができる人(申立人
・本人(任意後見契約の委任者)
・配偶者
・四親等内の親族
・任意後見受任者
※法定後見と異なり、検察官や市区町村長による申立ては認められていません

B:申立てに必要な費用
・申立手数料 収入印紙 800円分
・連絡用の郵便切手 申立てをする家庭裁判所で確認
・登記手数料 収入印紙 1,400円分
※本人の精神の状況について鑑定をする必要がある場合には、申立人がこの鑑定に要する費用を負担する場合があります。

C:申立てに必要な書類
管轄の家庭裁判所のホームページで申立てに必要な書類を確認することができますが、主に以下のような書類が必要となります。

・申立書
・本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・任意後見契約公正証書の写し
・本人の成年後見等に関する登記事項証明書(法務局・地方法務局の本局で発行するもの。)
・本人の診断書(家庭裁判所が定める様式のもの。)
・本人の財産に関する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
・任意後見監督人の候補者がある場合にはその住民票又は戸籍附票。任意後見監督人の候補者が法人の場合には、当該法人の登記事項証明書。
・親族関係図

2)家庭裁判所へ申立て
申立ては、本人の住所地の家庭裁判所に対して行います。

3)家庭裁判所での審理
家庭裁判所では、申立てがあった後、以下のことを行います。

・本人の調査
原則として、家庭裁判所の調査官によって、本人調査が行われます。その際に、申立て内容や同意について確認を行います。ただし、本人に判断能力がなく意思表示が難しい場合は、本人調査が行われないこともあります。・任意後見人受任者の調査
必要に応じて、家庭裁判所は任意後見受任者から直接事情を聴取することができます。・親族への意向照会
必要に応じて、家庭裁判所は本人の親族に対して書面等により意向を確認することができます。・鑑定
医師の診断書だけでは本人の判断能力の低下がわからない場合に、本人の判断能力を医学的に判定するために、鑑定が行われる場合があります。

⑦任意後見監督人選任の審判

家庭裁判所において、審理が終わると、任意後見監督人選任の審判が行われ、任意後見監督人が決定します。このときから、任意後見が開始されます。

⑧任意後見監督人の登記

任意後見監督人の審判のあと、家庭裁判所から法務局に対して、任意後見監督人に関する登記の依頼が行われます。登記が完了すると、法務局から任意後見人へ登記事項証明書が交付されます。そして、任意後見人は、登記事項証明書を関係機関に提出し、その職務を行っていきます。

任意後見人の職務とは?

任意後見人の主な職務は以下の3つです。

  • 財産管理:本人の財産を適切に管理します。
  • 身上保護:本人の生活や健康を保護します。
  • 任意後見監督人への報告:定期的に事務処理状況を報告します。

また、任意後見人は、委任事務を行うにあたって、「本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならないと、法律(※1)で明記されています。
※1 任意後見契約に関する法律 第6条

任意後見の費用は?

任意後見の費用を確認していきましょう。

①契約にかかる費用:約7~14万円

1)専門家への報酬 約5~10万円
専門家に契約書の作成を依頼した場合の費用
2)公正証書の作成費用 約2~3万円
3)書類収集費用 約3000~5000円

戸籍謄本や住民票などの取得費用

②申立てにかかる費用 約6~12万円

1)専門家への報酬 約5~10万円
2)申立手数料及び後見登記手数料 2200円
 申立手数料は800円、登記手数料は1400円で、いずれも収入印紙で家庭裁判所に支払います。
3)送達・送付費用 約3000円
 家庭裁判所に郵便切手で提出します。金額は申立てをする家庭裁判所で確認しましょう。
4)医師の診断書の作成費用 約5000~1万円
5)書類収集費用 約2000~3000円

③継続的にかかる費用 月額4~8万円

1)任意後見人への報酬 月額3~5万円
2)任意後見監督人への報酬 月額1~3万円
 家庭裁判所が審判によって報酬額を決めます。

任意後見契約はいつ終了する?

任意後見契約は以下の場合に終了します。

・本人または任意後見人・任意後見受任者が死亡したとき
・本人または任意後見人・任意後見受任者が破産手続開始決定を受けたとき
・任意後見人・任意後見受任者が後見開始の審判を受けたとき
・任意後見契約が解除されたとき
・任意後見人が解任されたとき
・法定後見が開始されたとき

任意後見契約が終わったら?

任意後見契約が終了した際、任意後見人は以下のことなどを行います。
・任意後見監督人への報告
・任意後見事務報告書、財産目録等の作成
・任意後見修了の登記の申請
・相続人や遺言執行者へ財産の引き継ぎ

任意後見制度のメリットとデメリット

【メリット】
・任意後見人を家族にすることができる
・代理権の範囲や報酬などを自由に決められる
・元気なうち(判断能力があるうち)は、自分で財産管理ができる

【デメリット】
・任意後見監督人が選任されるため、家族だけで財産管理ができないときがある
・任意後見監督人に報酬が発生する
任意後見人には取消権がない
法定後見の成年後見人とは異なって、任意後見人には、取消権がありません。本人が第三者と結んだ契約を法律上当然に取り消す権利がない点は、注意が必要です。

さいごに

任意後見制度は、自分の意思を反映した安心できる将来を準備するための有力な手段です。自分の判断能力が低下した場合でも、自分が信頼する人に財産や生活の管理を任せることができます。この制度を上手に利用することで、本人の意思を尊重しつつ、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。事前に信頼できる専門家に相談し、適切な準備を進めていくことが重要です。

 

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