今や、日本は超高齢社会となり、認知症の高齢者も増加しています。そのため、最近問題になっているのが「認知症による財産凍結」です。
認知症になると、預貯金が引き出せなくなったり、不動産などの財産が使えなくなったりすることを指します。財産が凍結されると、認知症の高齢者本人だけでなく、介護をする家族の生活にも大きな影響が出ます。
最近は「終活」ブームで、自分が亡くなった後の「相続」について考える人が増えていますが、認知症対策についてはあまり考えられていないのが現状です。私も認知症の母を数年間介護していました。そのため、「自分が認知症になったらどうしよう・・・。」という漠然とした不安を常に抱えていました。今後は「おひとりさま」の高齢者が増えることが予想されるため、相続対策だけでなく、認知症対策も多くの方々が検討しておく必要があります。
そこで、数回にわたって「認知症対策」についての記事をまとめていくことにしました。多くの方々に読んでいただければ幸いです。
認知症対策記事一覧
今回の記事では、成年後見についてまとめました。
成年後見とは?
認知症や精神障害などが原因で判断能力が不十分な方々を保護し、支援するための制度。
成年後見制度を利用して、成年後見人が本人に代わって財産を管理することによって、本人の財産を守ることができます。
▷引用:厚生労働省 資料「自分ひとりではよくわからない!?成年後見制度」pdf
成年後見制度の概要
成年後見制度は、家庭裁判所が運用しており、下図のように大きく2つに分けられています。
法定後見制度とは?
本人の判断能力が低下した後に、家族などの申立てによって家庭裁判所が後見人を決定する制度。判断能力の程度に応じて、「成年後見」「保佐」「補助」の3つの類型がある。
法定後見開始後、家庭裁判所によって成年後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)が選ばれます。そして、その成年後見人等が本人の財産管理などを行います。また、必要に応じて家庭裁判所の判断によって、成年後見人等を監督する成年後見監督人が選ばれる場合もあります。
認知症を発症した後の手段
認知症を発症し、判断能力が低下した後に、財産を守る方法は、この法定後見制度しかありません。判断能力が低下した後は、家族信託や任意後見などの認知症対策を行うことができません。
任意後見制度とは?
本人が元気なうちに、将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ任意後見人を自分で選んでおく制度。
詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
法定後見が必要な場合とは?
事前対策がなされないまま認知症を発症して、財産が凍結してしまった場合に、法定後見が必要となります。
成年後見制度を利用するきっかけで、最も多いのは、「預貯金などの管理・解約」です。
どんな人が「成年後見人」などになれますか?
家族や親戚のほか、福祉の専門家や法律の専門家などが成年後見人などになれます。
▷引用:厚生労働省 資料「自分ひとりではよくわからない!?成年後見制度」pdf
ただし、下記の者は成年後見人になることができません。
民法847条 後見人の欠格事由
次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者
・未成年者
・家庭裁判所で成年後見人、保佐人、補助人などを解任されたことがある人
・破産開始決定を受けたが、免責許可決定を受けていないなどで復権していない人
・現在、本人との間で訴訟をしているまたは、過去に訴訟をした人
・現在、本人との間で訴訟をしているまたは、過去に訴訟をした人の配偶者、親または子
・行方不明である人
法定後見が開始されるまで
申立てをしてから成年後見人の職務が開始するまでに約2~3ヶ月かかります。
①申立書類の作成・準備
(1)だれが申立てできる?
法定後見の申立てはだれでもできるわけではありません。法律上、申立てができるのは、下記の者です。
・配偶者
・四親等内の親族
・成年後見人など
・任意後見受任者
・任意後見人
・成年後見監督人など
・市区町村長
・検察官
(2)どんな書類が必要?
・親族関係図
・医師の診断書
・本人情報シート(コピー)
・本人の戸籍個人事項証明書(戸籍抄本)
・住民票または戸籍の附票
・本人が登記されていないことの証明書
・申立事情説明書
・本人の財産目録およびその資料 など
詳しくは、管轄の家庭裁判所のホームページをご覧ください。
②管轄家庭裁判所への申立て
(1)本人の住所地(住民登録をしている場所)を管轄する家庭裁判所に対して申立てをする
(2)書類を準備したあとに、家庭裁判所に電話をして、面接日の予約をする
(3)書類を家庭裁判所に郵送する
※書類を送った後は、家庭裁判所の許可がなければ、申立てを取下げることができないため、注意が必要です。
③調査官との面接
予約した面接日に、家庭裁判所へ行き、家庭裁判所の調査官と面接をします。
④家庭裁判所における審理
家庭裁判所の裁判官が、書類や調査官のヒアリングなどを基に審理します。
⑤家庭裁判所による審判
(1)以下の2つの審判が行われる
・後見開始の審判
・成年後見人選任の審判
(2)審判書の送付
審判の後、申立人・本人・成年後見人に審判書が送られる
(3)審判の確定
成年後見人が審判書の送達を受けた日から2週間以内に利害関係人などから不服申立てがなければ、審判が確定する
⑥後見登記
(1)家庭裁判所から法務局に審判内容を登記するよう依頼
(2)登記完了後、成年後見人は法務局から登記事項証明書の発行を受けることができる
※この登記事項証明書は、成年後見人であることを証明するもの
⑦職務開始・初回報告
成年後見人は、金融機関や行政機関などに、成年後見開始と成年後見就任の届出や通知を行い、財産管理や身上保護などの職務を開始します。
また、成年後見人は、審判確定後2ヶ月以内に、本人の財産状況を調査し、財産目録と収支予定表を作成して資料とともに家庭裁判所に提出する必要があります。その後、定期的に報告をしなければなりません。
成年後見人の職務とは?
成年後見人は以下のようなことができます。
▷引用:厚生労働省 資料「自分ひとりではよくわからない!?成年後見制度」pdf
成年後見人の主な職務は以下の3つです。
・財産管理
年金や生活保護などの収入の管理、介護・医療サービス利用料の支払い、社会保険料や税金などの支払い、不動産の管理、確定申告
・身上保護
介護福祉サービスに関する事務、施設入所契約、介護契約、医療に関する事務
※ただし、本人にリスクのある手術や治療を行う際に求められる「医療行為への同意」をする権限はありません。
▷引用:厚生労働省 資料「自分ひとりではよくわからない!?成年後見制度」pdf
・家庭裁判所への報告
【定期報告】
年に1回、成年後見人は定期的に家庭裁判所に報告を行います。報告の際には、後見事務報告書と財産目録も提出しなければならない。
定期報告以外にも本人の財産や生活に大きな変化があった際にも家庭裁判所に報告する必要がある。
成年後見人の義務とは?
(1)意思尊重・身上配慮義務
成年後見人は、本人の意思を尊重し、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません。
(2)善管注意義務
成年後見人は、善良な管理者の注意(※1)をもって、その職務を行わなければなりません。
※1 善良な管理者の注意とは?
その人の職業や能力などから考えて通常要求される程度の津結いを払って職務に当たらなければならないこと
法定後見にかかる費用
法定後見にかかる費用を確認してみましょう。
【初期費用】 約117,000円
・申立手数料及び後見登記手数料 3,400円
・送達、送付費用 3,270円
・医師の診断書作成費用 5,000円
・書類収集費用 5,000円
・専門家の報酬 100,000円
【継続的にかかる費用】
・成年後見人の報酬 20,000円~/月額
いつ法定後見が終了する?
以下の場合、法定後見が終了します。
・本人が死亡した場合
・本人が完全に判断能力を回復して後見開始の審判が取り消された場合
法定後見終了後は?
成年後見人は、以下のことを行わなければなりません。
・死亡の通知、連結
本人の親族やケアマネージャー、家庭裁判所に報告します。
・後見終了の登記の申請
法務局に申請します。
・家庭裁判所への終了報告と報酬付与審判の申立て
・管理財産の引き継ぎ
本人の相続人や遺言執行者などに管理財産を引き継ぎます。
・家庭裁判所への財産引継完了の報告
法定後見のメリットとデメリット
【メリット】
・本人の財産を守ることができる
・本人の身上保護を図ることができる
【デメリット】
・多くの手間と時間がかかる
・家族が成年後見人に選ばれない可能性がある
・専門家が成年後見人に選ばれると報酬がかかる
・本人の財産が自由に使えなくなる
・成年後見人には重い責任がともなう
さいごに
成年後見制度は、認知症やその他の判断能力が低下した方々を保護し、支援するために重要な役割を果たしています。特に財産の管理や身上保護といった面で、本人の生活を支える大切な制度です。しかし、利用するためには家庭裁判所への申立てや書類の準備など、手続きが複雑で時間がかかることがあります。
法定後見制度を利用する場合には、あらかじめ制度の内容をよく理解し、適切な手続きを踏むことが重要です。また、成年後見人には重い責任が伴うため、その選任には慎重な考慮が必要です。事前に任意後見制度などの準備をしておくことで、認知症発症後もスムーズに対応できるようにしておくことが望ましいでしょう。
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