認知症対策⑥ おひとりさまの認知症対策とは?

おひとりさまの認知症対策

今や、日本は超高齢社会となり、認知症の高齢者も増加しています。そのため、最近問題になっているのが「認知症による財産凍結」です。

財産凍結とは?
認知症になると、預貯金が引き出せなくなったり、不動産などの財産が使えなくなったりすることを指します。財産が凍結されると、認知症の高齢者本人だけでなく、介護をする家族の生活にも大きな影響が出ます。

最近は「終活」ブームで、自分が亡くなった後の「相続」について考える人が増えていますが、認知症対策についてはあまり考えられていないのが現状です。私も認知症の母を数年間介護していました。そのため、「自分が認知症になったらどうしよう・・・。」という漠然とした不安を常に抱えていました。今後は「おひとりさま」の高齢者が増えることが予想されるため、相続対策だけでなく、認知症対策も多くの方々が検討しておく必要があります。

そこで、数回にわたって「認知症対策」についての記事をまとめていくことにしました。多くの方々に読んでいただければ幸いです。

 

認知症対策記事一覧

今回の記事では、おひとりさまの認知症対策についてまとめました。

”おひとりさま”とは?

おひとりさまとは、様々なことが原因で、ひとりで生活している方を指します。主に以下のように分類することができます。

  • 推定相続人や親族が誰もいない
  • 推定相続人や親族がいるが、仲が悪い
  • 推定相続人や親族がいるが、迷惑をかけたくない

認知症とひとり暮らしの現状

日本では、認知症患者が年々増加しており、特に高齢者にとって大きな問題となっています。家族と同居している場合でも認知症の影響は大きいですが、おひとりさまの場合は特に困難が増します。サポート体制を事前に整えることが、自立した生活を長く続けるための鍵です。

厚生労働省の資料によると、2022年の認知症高齢者数は約443万人と推計され、高齢者の12.3%が認知症を発症しているとされています。そして、2030年には約584万人が認知症を発症するのではないかと推計されています。このように、年々増加する認知症患者への対策が急務となっており、私たち一人ひとりも自分自身で対策を講じる必要があります。
▷参考:厚生労働省 資料「認知症施策について」 PDF

認知症の発症リスクとその段階

認知症の発症リスクは年齢とともに増加します。2025年には、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症を発症すると予測されています。認知症は年齢とともに進行し、特に80代後半になると約4割の人が認知症を発症すると言われています。認知症はゆっくりと進行し、初期段階では日常生活に軽微な影響しか及ぼさないことが多いですが、進行するにつれて生活全般にわたる支援が必要となります。

認知症にはいくつかのタイプがあり、アルツハイマー型認知症が最も一般的です。このタイプの認知症は、脳の神経細胞が徐々に壊れていくことで発症します。アルツハイマー型認知症の進行はゆっくりとしたもので、初期、中期、後期の3段階に分けられます。

初期(軽度)
初期の段階では、記憶障害(もの忘れ)が主な症状として現れます。理解力や判断力、集中力の低下、怒りっぽくなるなどの症状も見られ、徐々に日常生活に支障が出てきます。

中期(中度)
中期になると、記憶障害が加速し、新しい出来事を覚えることが難しくなります。場所や時間の感覚が失われ、昼夜逆転の症状や季節に合った服装を選ぶことが難しくなります。外出時の徘徊や夜間の妄想が増え、日常生活の多くの場面でサポートが必要となります。

後期(重度)
後期になると、表情が乏しくなり、反応がなくなります。コミュニケーション能力が失われ、会話が難しくなります。尿意や便意を訴えることがなくなり、尿・便の失禁が常態化し、介護の手間が増えます。身体機能が低下し、最後は寝たきりになることが多いです。

▷認知症については、こちらの記事でまとめていますので、ご覧ください。

”おひとりさま”が認知症になった場合の課題

おひとりさまが認知症を発症した場合、以下のような課題が発生します。

  1. 金銭管理の問題
    • 通帳やカードの管理が困難になる
    • 支払いの遅延や未払いが増える
    • 詐欺被害に遭うリスクが高まる
  2. 生活支援の不足
    • 食事や日常生活の支援が必要になる
    • 医療や介護サービスの利用手続きが難しくなる
    • 外出時の迷子や転倒のリスクが増える
  3. 社会的孤立
    • 孤独感や不安感が増す
    • 友人や近隣住民との交流が減少する
    • 精神的な健康が悪化する

おひとりさまが認知症を発症して、判断能力が低下しても、親族などのサポートを受けることが難しい場合が多いため、サポートしてくれる親族がいることが前提となっている家族信託などの認知症対策を利用することは困難です。では、おひとりさまの認知症対策にはどのようなものがあるのでしょうか?

任意後見制度の活用

任意後見制度は、判断能力が低下したときに備えて事前に信頼できる人に財産管理や生活支援を任せる制度です。この制度を利用することで、認知症になっても安心して生活を続けることが可能です。

任意後見契約の内容

  • 日常生活の支援
  • 医療や介護サービスの手続き
  • 財産管理

任意後見人の選び方: 親族や友人、専門家から信頼できる人を選びます。契約内容は公正証書として残し、後見人への報酬についても事前に取り決めておきます。

任意後見契約の結び方: 契約書は公正証書として作成する必要があります。後見人を家族や友人に依頼する場合でも、専門家に相談して契約内容を明確にしておくことが重要です。任意後見人への報酬は、本人と任意後見受任者との間で自由に決めることができます。専門家に依頼する場合は、月3万~5万円の報酬が相場です。

任意後見の開始: 本人の判断能力が低下したときに、任意後見受任者や家族が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てます。任意後見監督人が選任されると、任意後見契約が開始されます。任意後見監督人は、本人に不利益がないように任意後見人を監督します。弁護士や司法書士が任意後見監督人として選任され、報酬は月1万~2万円程度が相場です。

▷任意後見制度については、こちらの記事で詳しく解説しています。

法定後見制度の選択肢

任意後見制度のほかに、法定後見制度もあります。こちらは認知症やその他の理由で判断能力が低下した際に家庭裁判所が後見人を選任する制度です。つまり、認知症になった後の対策です。後見、保佐、補助の3つの類型があり、本人の判断能力に応じて選ばれます。

法定後見の類型

  • 後見: 判断能力がほとんどない場合
  • 保佐: 判断能力が著しく不十分な場合
  • 補助: 判断能力が一部不十分な場合

法定後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てが必要です。申立てを行うことができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長、検察官などです。後見人は家庭裁判所が選任し、本人の財産管理や生活支援を行います。

▷法定後見制度(成年後見制度)については、こちらの記事で詳しく解説しています。

自己防衛のための具体的なステップ

  1. 健康管理
    • 定期的な健康診断や脳トレーニングを行う
    • バランスの取れた食事と適度な運動を心がける
  2. 財産管理の準備
    • 通帳やカードの管理方法を見直す
    • 信頼できる人に緊急時の連絡先や財産の管理方法を共有する
  3. 生活支援のネットワーク構築
    • 地域の支援サービスやボランティア団体を利用する
    • 友人や近隣住民との関係を大切にし、助け合いの体制を作る
  4. 法律的な準備
    • 任意後見契約を結び、信頼できる任意後見人を選定する
    • 公正証書で契約内容を明確にしておく
    • 法定後見制度の理解を深め、必要に応じて申立てを行う
  5. 精神的な健康管理
    • 趣味や興味のある活動を続ける
    • 社会参加を積極的に行い、孤独感を減らす
    • メンタルヘルスケアを意識し、専門家のサポートを受ける

その他の対策

認知症対策と同時に以下の対策も検討しておきましょう。おひとりさまの場合、通常家族が行うようなこと(身上保護、身元保証、葬儀など)も第三者にお願いしておく必要があります。

  • 見守り契約
    行政書士や司法書士などの第三者に定期連絡や定期訪問をお願いすることで、健康状態や生活状況に変わりがないか確認してもらう契約が、見守り契約です。
  • 死後事務委任契約
    死後の様々な手続を第三者にお願いしておく契約です。
    ▷死後事務委任契約については、こちらの記事で詳しく解説しています。
  • 身元保証契約・身元引受契約
    第三者に病院への入院や高齢者施設への入所の際に必要となる身元保証契約や身元引受契約をお願いしておきます。
  • 遺言書
    亡くなった後、財産を誰にどのように承継させるかを生前に決めておく書面です。
    ▷遺言書作成について、こちらの記事で詳しく解説しています。

もし対策せずに認知症になったら

高齢者のひとり暮らしで認知症の対策をせずに発症すると、生活費や医療費の管理が困難になり、詐欺被害に遭うリスクも高まります。また、入院や介護施設への入所手続きができず、必要なサポートを受けられないことがあります。法定後見制度を利用することになりますが、自分の希望するサポートが受けられるかは不確実です。

さらに、法定後見制度の申立てには時間がかかり、その間に財産の管理や生活のサポートが滞る可能性もあります。法定後見人が裁判所によって選ばれるため、希望する人物が後見人にならない場合も多く、信頼関係が築かれていない後見人に財産や生活を任せることに対する不安も残ります。

こうしたリスクを避けるためには、事前に任意後見契約を結ぶことが有効です。任意後見契約では、自分が信頼できる人物を後見人として指定し、具体的なサポート内容を契約書に記載することができます。

また、認知症が進行してもできるだけ住み慣れた自宅で過ごせるようにするためには、地域のサポートネットワークを活用することも重要です。地域包括支援センターや自治体のサービスを積極的に利用し、介護サービスや訪問医療の手配を行うことで、認知症の進行を抑え、快適な生活を続けることが可能です。

さらに、健康管理や予防にも力を入れることが大切です。バランスの取れた食事や適度な運動、社会活動への参加は、認知症の予防に効果的とされています。特に、孤独感を感じないように、地域のサークルやボランティア活動に参加することで、心身の健康を保つことができます。

おひとりさまの認知症対策のまとめ

おひとりさまが認知症に備えるためには、早めの準備が重要です。任意後見制度や死後事務委任契約などを活用し、信頼できる人との連携を強化することで、安心して自立した生活を続けることができます。また、健康管理や社会的なネットワークの構築も重要です。自分らしい老後の準備を進めるために、以下のステップを参考にしてください。

  1. 健康管理を徹底する
  2. 財産管理を見直す
  3. 生活支援のネットワークを構築する
  4. 法的な準備を行う
  5. 精神的な健康を保つ

これらの対策を実行することで、認知症になっても安心して生活を続けることができるでしょう。認知症は誰にでも起こり得ることですが、早めの対策を講じることで、その影響を最小限に抑えることができます。今からできることを始めて、自分らしい未来を築いていきましょう。」


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