日本において、在留資格「特定技能」を持つ外国人を雇用する場合、企業は住居確保の支援を行うことが制度上必須となっています。しかし、具体的にどのように支援を行えばよいのでしょうか?この記事では、特定技能外国人への住居支援について詳しくまとめています。
外国人が住居を用意する難しさ
特定技能外国人かどうかに関係なく、海外からの外国人を採用する場合、住居の確保が必要です。しかし、外国人が日本で住居を借りるのは、日本人と同じようにスムーズに契約が進まないことが非常に多いのが現状です。その理由には以下のようなものがあります。
① 大家が外国人であることを理由に部屋を貸したがらない
日本では、外国人を敬遠する大家が存在します。これは、外国人に対する偏見や、言語や文化の違いからくる不安感が原因です。例えば、家賃の支払いが滞るリスクや、契約内容の理解不足からくるトラブルを避けたいと考える大家もいます。また、コミュニケーションの障害や文化の違いによる生活習慣の違いなども、外国人を受け入れにくい理由の一つです。このような背景から、外国人は物件探しにおいて不利な立場に立たされることが多いです。
② 保証人を用意できない
日本の賃貸契約では、保証人が必要とされることが一般的です。しかし、外国人にとって日本国内で保証人を見つけることは非常に難しいです。特に、来日したばかりの外国人にとっては、信頼できる知人や親族がいないため、保証人を立てることができません。保証人がいない場合、契約が進まないことが多く、外国人にとって大きな障壁となります。
③ 収入面の問題で審査に通りにくい
外国人の収入や雇用形態が安定していない場合、賃貸契約の審査に通らないことがあります。特に、非正規雇用や短期契約の場合、収入の不安定さから審査が厳しくなることが多いです。また、雇用期間が短い場合、長期間にわたる賃貸契約を結ぶことが難しく、結果として住居確保が困難になります。
④ 日本語の読み書きが難しくて、契約書の記入が困難
日本語が得意でない外国人にとって、賃貸契約書の内容を理解することは難しいです。契約書には専門的な用語や細かい規定が記載されており、理解しづらい部分が多いです。また、契約書の記入や必要書類の提出にも日本語が必要となるため、日本語の読み書きが苦手な外国人にとって大きな障壁となります。
⑤ 書類を自分で用意できない
日本の賃貸契約では、住民票や在職証明書、収入証明書など、多くの書類が必要です。外国人にとって、これらの書類を自身で準備することは非常に困難です。特に、役所や会社から書類を取り寄せる際には、日本語でのコミュニケーションが求められます。言語の壁や手続きの複雑さから、必要書類を揃えることができない場合があります。
⑥ 礼金・敷金・更新料など、日本独自の費用
日本の賃貸契約には、礼金や敷金、更新料などの独自の費用が存在します。外国人にとって、これらの費用の概念や金額が理解しづらく、負担が大きいと感じることがあります。また、これらの費用が高額であるため、初期費用として多額の資金を用意する必要があります。特に、来日したばかりの外国人にとっては、これらの費用が大きな経済的負担となります。
特に、日本に来たばかりの外国人は日本の賃貸契約のルールを知らないため、契約説明などが理解できないことがあります。また、日本語の読み書きが苦手な場合、必要書類を役所や会社から集めることも難しくなります。これにより、契約がスムーズに進まないことが多く、外国人にとって住居確保は非常に困難な課題となります。
法務省の調査によると、外国人が入居を断られたり、日本人の保証人がいないために契約ができなかったというケースが一定数あることがわかっています。また、「令和5年度 在留外国人に対する基礎調査報告書」では、住居探しにおける困りごととして以下の意見がありました。
・ 転職して新しいアパートを探していた時に、複数の家主や不動産会社から、外国人とは取引しないと言われました(日本語を上手に話すとしても)。このような状況は、個々の会社や人間次第なので、どうしようもないことはわかっています。外国人として手頃な住宅を探すのは、思っていた以上に大変でした。
・ 友人は賃貸住宅を退去後、合理的ではない金額の敷金の徴収を求められたようです。昨年、私自身も日本に来たばかりの時、住宅を賃借する流れをあまり熟知しておらず、ある期間、困惑していました。もし、内容に住宅を探すことから退去するまでの流れを含み、外国人に配慮された住宅賃借ガイドがあれば良いと思います。
▷引用:「令和5年度 在留外国人に対する基礎調査報告書」
これらの問題は、外国人にとって日本での生活をスタートする上で大きな障壁となっており、企業が住居確保の支援を行う重要性を示しています。
住居支援が企業評価のポイントとなる理由
外国人にとって住居の確保が困難である一方で、企業がその支援を行うことは非常に評価されます。求人票などに住居確保の支援が明記されていると、応募者にとって大きな安心材料となり、企業への応募率が向上します。特に、日本人の場合は寮や社宅に対する抵抗感があることも多いですが、外国人の場合はむしろ歓迎される傾向があります。
支援がない場合、外国人は自力で住居を探さなければならず、多くの障壁に直面します。そのため、企業が住居支援を行うことで、外国人の生活の安定をサポートし、長期的な定着を促すことができます。
特定技能外国人の住居支援方法
特定技能外国人を雇用する場合、企業は住居確保支援を行うことが義務づけられています。具体的には以下の方法があります。
1. 寮・社宅を提供する
企業が所有する社宅や寮を提供する方法です。一部の賃料を外国人本人に負担させることも可能ですが、金額にはルールがあります。この方法は、賃料が低く抑えられるため、外国人に喜ばれる傾向があります。また、ライフラインの契約も不要になるため、安心感が増します。
2. 企業が住宅を借りて提供する
企業が契約を結び、特定技能外国人に住居を提供する方法です。住居の選定は特定技能外国人の同意のもとに行われます。この場合、家賃を外国人に負担させることも可能ですが、契約は企業が行うため、家賃滞納などのリスクを回避できます。
3. 住居契約のサポートをする
日本国内に在住している特定技能外国人向けに、住居契約のサポートを行います。具体的には、不動産仲介事業者や賃貸物件の情報提供、住居探しや内見、契約時の同行、保証の提供などがあります。企業が連帯保証人となったり、保証会社を確保して緊急連絡先になるなどの方法があります。
住居確保支援のルール
住居確保支援にはいくつかのルールがあります。これらを無視すると出入国管理局から指摘を受ける可能性があるため、注意が必要です。
部屋の広さの最低基準
特定技能1号の場合、部屋の広さは1人当たり7.5㎡以上が求められます。ただし、ルームシェアなどの場合は1人当たり7.5㎡以下も認められることがあります。具体的には、技能実習生が特定技能1号へ在留資格を変更する場合など、既に確保している社宅を引き続き使用する場合は例外が認められます。この場合、寝室は1人当たり4.5㎡以上を確保する必要があります。
企業は利益を得てはいけない
住居を提供する際、企業は利益を得てはいけないとされています。具体的には、借上げ物件の場合は借上げに要する費用(管理費・共益費を含む)を外国人の人数で割った額以内で設定しなければなりません。自己所有物件の場合は、実際に建設・改築に要した費用や物件の耐用年数、外国人の人数などを考慮して合理的な額を設定する必要があります。
敷金・礼金や保証料金の負担
企業が住居を借りて提供する場合、契約で発生する敷金や礼金、保証料を外国人本人に負担させることはできません。これらの費用は企業が負担する必要があります。ただし、外国人本人が賃貸契約をする場合は、基本的に本人が負担することになりますが、企業が負担することも問題ありません。
自治体への届出
住居確保ができた後、必ず自治体へ住所登録の届出を行う必要があります。これを怠ると、住民登録ができず、さまざまな公的サービスを受けることができなくなります。住所登録は、日本での生活を始めるうえで非常に重要なステップです。以下に、その重要性と具体的な手続きを詳しく説明します。
まず、住所登録を行わないと、住民票が発行されません。住民票は、日本での生活において必要不可欠な書類です。例えば、銀行口座の開設や携帯電話の契約、運転免許証の取得など、日常生活に欠かせない手続きの多くで住民票が必要となります。また、健康保険や年金の加入手続きにも住民票が求められるため、これらの公的サービスを利用するためには、必ず住所登録を行う必要があります。
さらに、住所登録は税務上の手続きにも影響を与えます。自治体に住所登録を行うことで、住民税の計算や納付が適切に行われるようになります。住民税は、その人が居住している自治体に対して支払われる税金であり、自治体が提供する公共サービスの財源となります。したがって、住所登録を行うことは、地域社会への貢献にもつながります。
住所登録の手続きは、住居を確保した後14日以内に行う必要があります。手続きの際には、パスポートや在留カード、賃貸契約書などの身分証明書類が必要となります。自治体の窓口に出向き、必要書類を提出して住所登録を行うことで、正式にその地域の住民として認められます。この手続きは比較的簡単であり、自治体の職員が丁寧に対応してくれるため、安心して手続きを進めることができます。
また、住所登録を行うことで、自治体からの重要なお知らせや通知を受け取ることができるようになります。例えば、防災情報や選挙の案内、税金や保険料の納付通知など、生活に関わるさまざまな情報が郵送されます。これにより、緊急時の対応や社会参加がスムーズに行えるようになります。
加えて、住所登録を行うことで、地域のコミュニティに参加することができます。自治体が主催するイベントや活動に参加することで、地元の住民との交流を深めることができ、日本の文化や習慣をより深く理解する機会が増えます。また、地域の住民と顔見知りになることで、困った時に助け合える関係を築くことができるでしょう。例えば、ゴミの分別や収集日など、地域独自のルールを教えてもらうこともあります。
住所登録は、外国人が日本での生活をスムーズに送るためにも非常に重要です。日本での新生活を円滑にスタートさせるためには、住居確保後すぐに自治体へ住所登録の届出を行うことが肝心です。これにより、必要な公的サービスを受けることができ、地域社会の一員として安心して生活を送ることができます。
住居支援の具体例
住居支援の具体例として、いくつかの事例を紹介します。
1. 寮の提供
ある企業は、特定技能外国人向けに新たに寮を建設し、外国人に提供しています。寮の部屋は1人当たり10㎡以上で、バス・トイレは共用ですが、清潔で快適な環境が整えられています。また、寮内には共用のキッチンやリビングルームがあり、住民同士の交流も図れます。企業はこの寮の家賃を非常に低く設定し、外国人の生活費を抑えることで、安心して働ける環境を提供しています。
2. 社宅の提供
別の企業では、既存の社宅を改装し、特定技能外国人に提供しています。この社宅はファミリー向けの広さがあり、家族での生活も可能です。企業は社宅の家賃を合理的な額に設定し、外国人にとって負担の少ない形で住居を提供しています。また、社宅の近くにはスーパーや学校があり、生活に便利な立地も魅力です。
3. 住居契約のサポート
ある企業は、外国人が自分で住居を借りる際のサポートを行っています。不動産業者と提携し、外国人向けの物件情報を提供するだけでなく、契約時の同行や保証の提供も行っています。企業が保証人になることで、外国人がスムーズに住居を借りることができるよう支援しています。また、必要な書類の作成や契約内容の翻訳など、言語の壁を超えるサポートも提供しています。
登録支援機関へ委託が可能
1号特定技能外国人に対する義務的支援には、住居確保をはじめとして、多岐にわたる業務が含まれています。これらの支援業務には専門的な知識や経験が必要な場合が多く、全てを自社で完遂するのが難しいケースも少なくありません。
そのような場合に、支援業務の一部または全部を外部に委託することができる制度が存在します。これを可能にしているのが「登録支援機関」という仕組みです。
「登録支援機関」とは、出入国在留管理庁長官から正式に登録を受けた事業者を指します。つまり、支援業務を委託する際には、任意の業者ではなく、この登録支援機関に依頼する必要があります。登録支援機関として活動している事業者には、支援体制が整った業界団体、民間法人、行政書士、社会保険労務士など、様々な専門家が含まれています。これにより、多様な支援ニーズに対応できる体制が整えられています。
支援業務を自社で行うことが難しい理由は様々です。例えば、住居の確保に関する手続きや、日常生活に関する相談対応、さらには日本語教育や異文化理解のためのサポートなど、多岐にわたる支援が求められます。これらを全て自社で対応するためには、専門的な知識と経験を持つスタッフが必要となりますが、現実的にはそのような体制を整えるのが困難な企業も多いのです。
特に、自社で支援を行うことが義務付けられない特定の条件下では、登録支援機関に委託することが必須となります。具体的には、以下のような場合が該当します。
- 直近2年間に外国人労働者の受け入れ実績がない場合
- 生活相談に従事した経験を持つ役員・職員がいない場合
これらの条件を満たさない企業は、全ての支援業務を登録支援機関に委託しなければならないとされています。これにより、外国人労働者が適切な支援を受けられるようにし、彼らの日本での生活と就労が円滑に進むようサポートすることができます。
委託先となる登録支援機関は、企業のニーズに合わせて選ぶことが重要です。例えば、特定の業界に詳しい支援機関や、地域に密着したサービスを提供している機関など、企業の状況や外国人労働者の特性に合った支援を受けられるようにすることが、成功の鍵となります。
さらに、支援業務の委託は、単に業務の負担を軽減するだけでなく、専門家による質の高いサポートを受けられるというメリットもあります。登録支援機関は、出入国在留管理庁の登録を受けるために、一定の基準を満たす必要があります。そのため、専門的な知識と経験を持ち、外国人労働者のサポートに精通していることが保証されています。
外国人生活支援ポータルサイト
出入国在留管理庁は、外国人やその支援者に有益な情報を提供するウェブサイトを開設しています。日本で生活するために大切なことをわかりやすい日本語で紹介しています。また、パンフレットがダウンロードできるため、雇用している外国人に配るのもいいでしょう。
▽外国人生活支援ポータルサイト
さいごに
特定技能外国人の住居確保支援は、企業が外国人材を雇用する上で重要な要素です。住居支援があることで、外国人は安心して新しい生活を始めることができ、企業への信頼感も増します。また、住居確保支援にはいくつかのルールがありますので、企業はこれらを守りながら適切な支援を行うことが求められます。
企業が積極的に住居確保支援を行うことで、特定技能外国人が安心して働くことができ、企業の評価も高まることでしょう。企業と外国人労働者が共に成長し、より良い関係を築くためにも、住居確保支援は欠かせない要素と言えます。
なお、当事務所の代表は日本語教師歴10年以上の経験を持ち、日本語研修やマナー研修を行うことが可能です。外国人労働者の方々が円滑に業務に取り組めるよう、お手伝いできればと考えております。ご依頼やご相談は、下記のページをご覧ください。
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